第4話 皇子と法皇 作戦会議
数多くの戦術書物が置かれ、大凡皇子らしくない部屋の中央にある椅子にスターが腰かけるとルイナはそのすぐ近くにある唯一皇子らしさがある絢爛なベッドの上に座る。
「流石だね、上層部が奪還を急ぐ意図をああもあっさりと見抜くなんて」
「それはルイナ皇子も同じでは?」
スターがこう話した瞬間、ルイナが少しムッとした顔を浮かべ
「二人の時は名前で呼んでって何時も言ってるでしょう。年はそっちが上なんだから」
と口を尖らせて言う。
「そうは言うが、他の兵士への立場もあるから中々そういう訳には行かない。皇子のお情けでこの城に泊まり込んでる等と言わせない為にもな」
「やれやれ・・・まだそんな事を言う奴が居るとはな・・・」
スターがそう反論するとそこに中年の男性が入って来る。
「父さん!!何時の間に・・・」
「法皇!!何時の間に・・・」
スターとルイナが共に驚くと法皇は
「何、二人の会話が聞こえてきただけだ」
と偶然とも誤魔化しているとも取れる返答を口にする。
「スター君がこの城に来てからもう十年、ルイナが生まれてから八年か。時間が経つのは早いが、戦争の終わりは未だ見えてこない」
「ええ、その戦争の今後の為にもこの作戦を成功させ、流れをこちらに引き寄せる必要があります。では、私は出撃の準備がありますので」
スターはそう告げると部屋を出て自室へと向かっていく。それを見送ったルイナと法皇は
「スター君をこの城で引き取ってから十年か、未だに戦友に勝利の報告が出来ない事が悔やまれるよ」
「ええ、スター兄が父の戦友であった御家族を魔人族の襲撃で失い、未だにその街は魔人族の占領下。あの戦いへの執念と秀でた戦闘能力は血筋もあるのかもしれませんが、偏にその執念故でしょう」
「ああ、だがそれは時として危うく、いとも簡単に崩れ去ってしまう。だからこそ、私達は皇としてだけでなく、人間として彼を支えていかなければならない。分かっているな」
「・・・はい」
と会話し、法皇がルイナに言って聞かせるがルイナの表情と法皇の表情は同じ様で違う、同じ物を見て居る様で違う物を見て居る、そうした違和感を感じさせる物であった。
自室に戻ったスターは手元の剣の根元、柄の近くに埋め込まれている青い宝石を見つめ
「あの日・・・俺が魔人族の手から逃れた時、唯一持ち出せた形見・・・あの時俺を救ってくれた存在は一体・・・それを知る為に、そして故郷を奪還する為に力を付けている・・・否付いている筈だ」
と小声で呟く。その姿は見ている人によっては危ういと感じる物であった。その時腰にかけていた通信機に通信が入り
「コンスタリオ小隊、只今よりピスティアタウン奪還作戦のミーティングを行います。各員は作戦会議室に」
と言うコンスタリオからの伝言が入って来る。
「・・・時間か」
スターはそう告げると自室を後にし、作戦会議室に向かう。そして到着するとそこには既にシレット、モイスが机に座り、コンスタリオが前に立っていた。
「集合が早いわね」
「流石に隊が結成されて五年経てば早くもなりますよ」
「まあ、それもそうね」
コンスタリオとシレットが又与太話風の会話をしているのを尻目にスターも着席し会議の体制は整う。
「さて、ルイナ皇子から伝達があったのですが、正規軍はピスティアタウンに対し正面から攻撃を仕掛ける模様です。ですがそれでは運河側に居る人を人質に取り、タウンに籠城される可能性が高いといえるでしょう。
そこで私達の出番と言う訳です。私達は密かにタウン南側より突入、内部をかく乱しつつ可能な限りの人の安全を確保し、可能であれば指揮官を叩く事が目的となります」
コンスタリオが作戦の全体像を説明する。その口調と様子は先程までの与太話時とは完全に別人であった。
「成程、少数精鋭による奇襲、私達が良くあてがわれる任務ですね」
「良くあてがわれるって言うより、そういう目的で作られたチームなんじゃねえの?」
「そう思うのであれば目的の為に尽力しなさい」
年上のシレットに対しても指揮官としての立場を崩さないコンスタリオ、モイスもそれは響いたのか崩していた座り方を改める。
「もし奇襲に気付かれた場合はどうするのですか?」
スターが質問するとコンスタリオは
「戦力に余裕があり、尚且つ指揮官が愚か者であればそのまま継続は可能でしょう。しかし万が一直ぐに人質を取ってきた場合、魔法による更なる奇襲も検討しています」
それを聞いたシレットは目を輝かせ
「あれをやるって事ですね!!」
と言う。
「ええ、出来ればそうなって欲しくはないのだけれど」
コンスタリオはシレットを制する様に言う。
「では、作戦開始は今から四時間後、直ぐに配置に着きます」
コンスタリオがそう告げるとその場にいた全員が敬礼してから外に出て行く。
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