第5話 いつもと違う朝
妻が亡くなったのは2年前。上の子は、元々明るい性格もあって、受け入れも比較的出来ていると思う。でも下の子は今、中学2年——ただでさえ多感な時期。それはそれは辛い思いをさせていると思っている。この大事な時期、父一人で何が出来るか分からない、でも少しでも不自由な思いだけはさせたくないと思っている。天国にいる母さんのためにも。
今日は3学期の初日、学校が始まる日だ。ご飯はもう作ってある。美緒を起こしてあげないと。起こしに行ったら行ったで何か言われるかもしれない。それでもいい、いつか分かってくれる日がきっとくる。
美緒の部屋の前。扉には「無断侵入禁止!」と大きく書いてある。
「美緒、入って良いか?」
そう言って扉を叩く。
きっとまだ寝てるだろう、そう思っていると、中から意外な返事があった。
「いいよ」
?
今までこんな事は無かった。一体どうしたのだろう。
驚きながら扉を開けると、そこには思っても見ない光景が広がっていた。
美緒は既に着替えを終え、姿見を見ながら、口に髪を束ねるゴムをくわえ、丁度髪を結う所だった。
「……(何?)……」
ゴムを加えながら、もごもごとした口からそんな返事をして美緒は振り返った。その姿に思わず胸の鼓動が速くなった、何故ならその凜として立つ姿は妻の昔の面影そのものだったからだ。
「いや、その……」
美緒はじっとこちらを見つめていた。
私もその目をじっと見つめ返してからいつもの明るい声でこう言った。
「美緒、ご飯出来たよ。今日のご飯は目玉焼き、固さは美緒の好きな少し柔らかめ、美緒お気に入りの牡蠣醤油ももちろんあるよ。準備出来たらおいで」
すると美緒はにこりとした。
「ありがと」
ありがと。いつぶりに聞いた言葉だろうか。
母さんが見たらきっと喜ぶだろう、美緒はちゃんと育っているよ。だから心配要らないよ。
——そんなの当たり前じゃない、だって私の子よ?——
そんな声が聞こえた気がして、私はまた思わずニヤリとしてしまうのだった。
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