Stage5_零時《rage》
「
我を忘れて生まれた意識の空白を縫って、一ツ眼は
フッ、と。
まばたきの余地もないほど鮮やかに、鋭く尖った爪が喉元に迫る。ウィズの
だが一ツ眼の向こう側、
「根差せ、
こわばった声で唱えられた
両腕を後方に括り付けられた一ツ眼は、唸りながら目の前の
『FuShuuuu……!』
気圧されていた
『お父様、スコアがッ……!』
ウィズの声に意識を戻され画面を覗くと、先ほど手を止めた
「アタエさん、平気ですか?」
「あ、あぁ、すまん、取り乱した。……アイツはウィズとは違うというのに」
「いえ、それよりも……」
純がキツい視線をウィズに投げる。
「ウィズ、できるなら仕留めろ。それと平サンの中から眼を戻しておけ」
低い声で
だがいくらウィズといえども、スコアの
現に今も一ツ眼は拘束を二つまで振り払い、九つの腕に掴まれながらも尻尾の薙ぎ払いと噛み付きだけでウィズと渡り合っている。
「あの状態の平サンを長いこと放置したくない。手短かに話す」
ちらりと向けた視線の先に、
「ウィズは元々妹の、
「……え?」
「眼を飛ばして見るファインダーの能力、あれは写真投稿のSNSがその源だっていっただろ。
純は
「アイツは赤信号だってのに、道路に飛び出して写真を撮り始めた。……当然、そこには車が走っていたさ」
その先の言葉はなかった。それでも何が起こったかなんて明白で。
「救急車に担ぎ込まれるときも、スマホだけは手放さなかったらしい」
純は息をのんで唇を結んだ。
「写真フォルダはさ、迫ってくる車の写真で埋め尽くされてたんだとよ」
「どうやら宿主が死ぬとグラトンも消えちまうらしい。それでウィズは妹と血の近い俺に取り憑こうとしたんだ。その辺のことはウィズに寄生されたとき、記憶が移ってきたからよくわかる」
「それをウィズさんは知って……?」
「いいや、ウィズはなにも覚えてなかった。記憶が移るっているのはコピーってことじゃなくてデータの移行ってことだ」
「なにも覚えていないなんてそんな……」
イノチヲウバッタノニ?
純の悲痛な面持ちにはそう書いてあった。
「……ウィズのその行動の裏には黒幕がいた。ウィズを
『お父様ッッ!!』
ウィズの叫び声に二人が目を向けると、一ツ眼がブチブチと音を立てながら
「ウィズ、眼を閉じて力を抜け! 俺が動かす!」
「……すみません、私はアレが解けるまで新たに祝詞は唱えられないので、平さんの側にいます」
純は俯いたまま小走りで平のもとへ向かった。
『キる! ちぎル!!』
残り二本。どうやら一ツ眼は、左の腰と右のふくらはぎに絡みついているそれが闇雲にやっては千切れないことを悟ったらしい。
爪と鱗に覆われた筋肉質な両手で
だが、それを許す
テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】
『くたばりなさい、
『わたしはッ、お前のような愚物とはッ……!!』
テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】 テロン♪【excellent!】
刃。鱗、受け流す。尾、薙ぎ払う。障壁、防ぐ、と同時に浮遊、奇襲。
斬! 斬! 斬! 傷、赤、浅い。足りない。踏み込む。
ひと突き。
ズブリと、
『イた、いタ……?』
一ツ眼は胸を貫くそれを見て発狂した。
『イたィaaaaァアァア!! ヴァッ、アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
響く悲鳴、ブチリと音を立てて引き裂かれる最後の枷。知恵を絞った一ツ眼にとって皮肉なことに、見境のない暴走によりその緊縛は解かれた。
「ウィズ、いくぞ」
テロン♪【50combo!】
『
ウィズが両腕を広げてから圧し潰すように自身の前の空間をすばやく抱え込んだ。
一ツ眼の四方八方から見えざる障壁が押し寄せる。
「私も……!」
「盛れ!
純の唱えた
あとわずかのところで
ッッ
火種が触れた箇所から紫色の
一ツ眼は紫の
「平さんはもう平気だそうです、一人で歩けると」
純が声をかける。
『全く、勘弁してよね』
数秒と経っただろうか。それほど間を置かずに、それは確かに爆煙立ちこめる中から聞こえてきた。
それは少年のようで、だが確実にグラトンの声で。
『もうすぐ零時のアップデートがあるって言ってんじゃん』
爆煙を吹き飛ばしたそれは純白の翼を散らして顕われた。
それは天使と呼ぶに相応しいほどの光の粒をまき散らしながらも、悪魔と呼ぶに相応しいほどの醜さをしていた。
だらりと長い四本の腕、脚のような部位は枝が伸びるようにして大きな根を作っていた。それはなんだかスカートのようにも見える。
首はなく、浮いた頭部は美しい球体をしていて、白い輝きを放っていた。
肩甲骨の直後から大仰な翼が生えており、その付け根には小さな
「て、めえ!!」
白翼のグラトンは
『うん? 誰だか思い出せないやあ。ボクら急がなくちゃ行けないから、ゴメンね』
――そこには一体の龍の影があった。
『じゃあね』
そういうと暴風を
「……なんですか、アレは」
純は言葉を失っていた。
「あれがウィズを
辺りを見渡すが、その姿が見えない。
「アタエ……」
とそのとき平がふらつきながらも二人に近づいてきた。
「う、え……」
平はそれを静かに払いのけ、空を指差す。
ぽつりと浮く、ウィズの姿。
『お父様、お許しください』
遠く、夜空に消えていく背中。
「ウィズッ!!」
声だけが残る。月明かりは行方を照らしてはくれなかった。
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