第2話 ベンテルべ村への襲撃
「ベンテルべ村?」
真人はロングコートの中に入ってあった皮手袋を着けながらマリーに着いていく。先程気づいたのだが、コートの右ポケットには神からの手紙が入っており、また左ポケットには今付けている皮手袋が入っていた。驚くことに、その手袋は自分の掌に触れても腐らなかった。つまり、自分の能力を無効化しているのだ。ただ、これは一種の弱点だ。
(緊急時には対応できないな……)
何か他の方法で周りの敵を探索サーチする方法を探す事を最初の目的に入れる。マリーが先導して森の中を歩き、真人を誘導する。自分の村に誘う為だ。
「そうよ、この森の中に私達が住んでいる村の名前。一族の名前でもあるわ。私の場合は、マリー・ベンテルべって感じでね」
「ふーん」
真人は森の中を駆け回る虫達を眺めながら相槌を打つ。
「最初に言ったけど、虫達を攻撃しないであげてね。……人間には分からないかもしれないけど、彼等は私達エルフにとっては愛すべき友人達なの」
「分かってるよ、彼等を攻撃しない」
真人は億劫そうに答える。彼はマリーの白い肌と尖がった耳を見ながら、彼女が本物のエルフなのだと実感する。と、同時にオークや怪物などのモンスターの姿が目に浮かぶ。真人は皮手袋がいつでも外せるようにボタンを外す。エルフは平和を好む種族と言う知識を彼は持っていたが、先ほどの戦闘からその知識の有益性は無いと結論付けていた。つまり、この世界は予想外のことが発生する可能性を十分内包していることだ。
「だったら良いんだけど……あ、着いたわよ」
マリーは前方を指差す。すると、そこには歴史の教科書で見たような板で造られた小屋が木の上に建てられていた。
「これが……!!」
「驚いたかしら?人間は地上にしか建物を作れないけど、私達は違う。自然と共に生き、音楽と本を楽しみ、また強く気高く生きるのが私達「ベンテルべ一族」よ!」
「確かに……これは凄い。一族ってことは他にも村があるのか?」
真人は素直に驚きながら全体的に青と緑が基調としたその景色を見る。青色に輝いているのは水だろうか、元いた世界の水と比べて澄み切っている。そして、緑はどうやらコケを着けた木々らしい。清らかな水を吸って育ったそれらは大地からズッシリと根を下ろしている。まるで、生の象徴だ。
「当たり前でしょ?一体どれだけ貴方達人間がエルフ狩りをしていると思ってるのよ。ま、ここはそんな人間は絶対に通さないけどね」
ふふん、とマリーは自慢げに笑う。真人はそれをスルーし、村で動いている他のエルフを見る。どうやら彼等もまた水色に輝く髪と透き通った青い目を持っている。マリーのみではなく、この村またはエルフ種族全てがこの色らしい。
「……それで、この世界の基本的知識はどこにあるんだ?」
真人は当初の目的をマリーに聞く。マリーは自慢を流されたことに腹を立てたのか少し頬を膨らませていた。しかし、すぐに彼女は違う方向を指差して、木を伝いながら移動する。真人もそれについていくが、途中で変な感覚を覚える。自分の体がモヤモヤした何かに包まれているような感触だ。だが、今は無視してマリーの後ろを追う。そして、図書館らしい場所に到着する。
「ここなら貴方が探す本もあるんじゃないかしら。ここに無いならこの村には無いわよ。」
「そうか、ありがとう。マリー」
「べ、別に良いわよ……でも、」
「何か?」
「マコト、あなたが変革者だとしても、何故こんな場所に来て知識を欲しようとするの?あなたくらいの年齢なら、そもそもこの世界の知識なんてある程度持っていて当たり前でしょ?」
「だから、僕は別世界から来たんだよ……いつまで疑っているんだ」
マリーは不審そうに手を顎に持って行きながら首を傾げる。
「でもねぇ……にわかには信じがたいことだわ」
「そうだろうな、僕も信じがたいことだと思うよ」
真人が度重なる同じ質問にウンザリしながら答える。その時、ズシンッと森全体が揺れた。
「うわっ!」
「な、何っ!?」
二人は建物にしがみついて揺れに耐える。真人は地震慣れしている為、すぐに正気に戻った。そして、木から村の4方を見渡す。すると、揺れに極度に怯えるエルフ達が見える。その中に、エルフの少年が木から誤って落ちる瞬間を発見する。
「まずいッ!!」
「マコトっ!?」
真人は建物から手を離し、即座に木から木へと飛び移って一番良い足場を探す。そして、視界の中で一番太い木に移ると同時に真人は無意識的に下半身全体と足の親指に魔力を集中させる。ドンッと木にクレーターのような凹みが出来ると同時に、村全体に空気の振動が伝わる。そして、真人の身体は弾丸の様に少年の元に飛ぶ。
「うそ……」
それを上から見て顔を青ざめさせたマリーはあっけに取られる。最初から彼の魔力の総量が巨大なのはマリーは承知していた。だが、今彼が身体強化術『鎧』に使用した魔力の量は自分が放つ極聖魔法の半分程度を容易く使っていた。そして、今も少年を抱えた彼は何も息切れしていない。彼等は村の中心部に降り立つ。
「――危ないッ!!だめっ……妖精の
そして、さらに村への不幸は続く。大木に生えた巨大な枝が折れて、誠達の直上に降りかかる。マリーは危険を伝え、妖精魔法を発動するが枝に少々傷が着くだけで終わる。そして、そのまま巨大枝は村の中心部へと落下してさらなる振動を与える。
「そんな……」
マリーは土の粉塵が巻き上がる中、村の中心部へと木を伝って移動する。その最中に、マリーはハッとする。
「――腐敗の手」
マリーは声がした方向を見る。その方向は前方斜め上から発生した。見ると、真人が右手で少年を抱え、左手の皮手袋を外して木の欠片を握りつぶしている。そして、真人はマリーに気付いたのか彼女の傍に降り立つ。
「コイツを頼む」
そう言って、真人は少年をマリーに差し出す。そして、マリーは彼の言葉に困惑した。
「どういうこと?まだ何かやることがあるの?」
そう言われた真人はマリーから目を離して何かを探すような目の動きをする。
「多分、これは人為的なものだ」
「えっ……!?」
「多分な、じゃなきゃこの村の中心部に木が綺麗に落ちるなんておかしい。――誰かが襲ってきてるんだ」
真人はそう言いながら、自分の欠点を悔やむ。やはり目だけではなく敵の探査能力が必要らしい。そうしている間にも悲鳴が聞こえ始める。
「え?え?何でこの村が……?」
チッと真人は舌打ちする。敵がどこにいるか分からない。この粉塵が舞い過ぎている状況では何も見えない。
「ならば、全てを吹き飛ばせば良い……いや、それしかない。マリー、僕の傍から離れろ!」
真人がそう指示し、マリーは困惑したままだがそれに従う。そして、真人は先程と同じように無意識的に魔力を全体と右拳に集中し奮った。すると、真人が空振りした曲線がまるで刃物のように粉塵を切り裂き、甲高い音と共に粉塵を押しのけた。
下には腐敗した巨大枝の上でエルフの村人達を襲い掛かる汚らしい男達を発見する。
「あれか……僕の邪魔は。ゲームで言うと盗賊ってところか」
その中でも、何故か目立つ大男は粉塵が行く方向とは逆の方向、すなわち真人の方に視線をやる。彼は全身に金色の鎧を装備しており、どう見てもこの盗賊の主だ。エルフの血が流れる中を闊歩しながら、彼は呟く。
「何だぁ?あのガキはぁ……はっはっはっははは……」
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