第3話 穴の底、ここはどこなんだ!?
巨大ななにかが背中に衝突する感覚があった。
息がうまく吸えない。
もがきながら呼吸を整えようとしていると、徐々に頭が冴えてきて、その巨大ななにかが地面であると理解した。
「う…うう…、たしかおれは、鍵のかかった扉を壊そうとして、壊れた拍子に…、えっと…」
自分の身に起きた出来事をできるだけ合理的に整理しようとするが、そうするにはあまりにおれの道理を逸れていた。
ただ、確かなのは、ネカフェの居室が巨大な落とし穴になっていて、俺はそこへ落下したという事実。そして、いまいる場所がその穴の底にあたる場所だという予想。
おれはまずスマホを確認した。
どうやら無事みたいだ。
こんな非常識な瞬間にも、第一にスマホの無事を案ずるという、おれ自身の非常識さに思わず笑みがこぼれる。
「水田?」
おれがあの穴へ落下したのなら、水田も同じようにそのあたりに転がっているはずだ。
水田の姿を探すが、周囲がやたらに暗いので、スマホのライトを点灯することにした。
あたりを照らすと、おれから何メートルか離れたところに見慣れた水田のスニーカーが見えた。
明かりをともすまで気づかなかったが、地面は石造りの人工的な床になっている。
そして、不必要にだだっ広い空間が広がっていることも感じ取れる。
「おい、水田?」
返事がない。気絶しているのだろうか。
体を引きずるようにして水田に近づき、ライトを彼に向ける。
水田は安らかな表情で、まるで眠るように目を閉じていた。
ただその安らぎに抗うかのように、彼の両足は不気味なほど鋭角に折れ曲がっていた。
「おい、大丈夫か!」
水田のぐにゃぐにゃとした両足を見たおれは、咄嗟にスマホを取り出す。
明らかに圏外と思われる閉鎖空間だが、なぜか電波が届いている。
119 をダイヤルし、スマホを耳に当てる。
対角に配置された 1 と 9 がやけに押しやすく感じた。
「はやく繋がれよ…、おい…!」
電話の律速は受信者の応答にあるはずなのに、おれは焦りを止められなかった。
「おかけになった電話番号は…」
5回目のコールで、いつもの女の、いつもの機械的な声が聞こえた。
なぜだ?電波が届いているのに、消防に電話がつながらない?
当惑する自分を諌め、思考を切り替えることにした。
助けを呼べないなら、おれが呼びに行けばいい。
「そもそもここはどこなんだ?最寄りの消防は?」
スマホの地図アプリを起動し、現在地を検索する。
「ここは…、…シモンズ・スミス公国…?」
ネカフェ店員、土田拓也
異界に降り立つ
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