一人称の強みを充分に発揮している作品です。
登場人物の情感によって動くこのような物語は、心情の描写が濃くなるあまり、テンポが遅れ、しちくどくなりがちですが、分かりやすい言葉選びと、物語のスケールの程よい具合が、それを防いでいます。
時折、やや仰々しいかな、と思う描写もありますが、まぁ往々にして思春期の少年が恋い焦がれる相手に抱く感情など、こういうものでしょう。
そこがまたリアリティがあって良かったです。
特に気に入ったのは、名前の文字をばらばらにするとどうということはないのに、全て揃ってあの子の名前になると、情感が湧き上がる。という独白。
自分が思春期に抱いていた恋心とよく似たものが、この物語の中にありました。
エピローグは読み手によって意見が分かれるでしょう。
あるいは蛇足だと思う人もいるかもしれませんが、最後に人物がこの視点でものを語るのをどうしても入れたかったのだとすれば、結末が明瞭で読者に親切な作品であると言えます。
よくある甘酸っぱい物語とは少し違うけれど、仄かにノスタルジー漂う、淡く、優しい物語でした。