第7話 聖子
次に帰郷する時になって、その手配に追われている頃
「話しておくことがあるの」
そう聖子が言い出した。僕は話の内容に思い当たることがなく
「何?」
そう気軽に答えた。視線を向けることもなく。とことん勘が鈍いのだと後で思い知るのだけれど。
考えてみたら、そんな風に聖子が改まって話を持ちかけることなんて今まで無かったかもしれないのに。
言い出しておきながら、言葉を探すように黙ってしまうのも、珍しいことだったのに。
「家族であなたの実家に帰る話がまだ有効なのかどうか…そして私がどうしたいのかを話しておかないとと思って」
そう言われ、僕は初めて彼女を見た。
「うん」
視線だけあげ彼女を見て、手は止めていなかった。簡単な相槌で話を促した僕は、いつの間にかすごく傲慢な夫になっていたのだと思う。
「私、石守徹さんが好きなの」
聖子が発した言葉は、あまりに想像からかけ離れていたので、すぐに僕の脳に、感情に届かなかった。まるで暗号のようにその言葉の意味を脳内で探し、それと同時にじわじわと感情が動き出した。
「それってどういう意味?」
それでも僕は、本当の意味が隠されていてそれに気がつかない愚鈍な男であることを心のどこかで願いつつ、聖子に答えを求めた。
「石守さんにどうしようもなく惹かれている」
聖子の答えは、僕が漠然と求めている答えとはやはりかけ離れていた。何を言えば良いのだろう?
「いつから?」
それは大切なことだろうか?分からない。
「分からないわ…彼の言葉を聞いているうちにか、歌を聞いているうちにか…」
石守の言葉にも歌にも、僕も惹かれてはいる。でもこれはそういう意味じゃ無い。
「あいつも?」
それは決定的な質問だけど、聖子が首を横に振るのを呆然としたまま見ていた。
「彼には何も言ってない。それは違うでしょ」
そうだ。聖子は『マディソン郡の橋』が嫌いだ。ヒロインの心情が理解できない。裏切ってどちらも傷つけて悲劇ぶっているけれど、ただの浮気でしょ。としか思えない。そう言っていた。
その潔い正しさが、きっと今自分を傷付けているはずだ。
「どうしたいの」
そう聞く僕は残酷だろうか…
聖子は今まで見たことが無い悲しい目で僕を見つめている。
「このまま、ここに住んで生きていくなら、思い出として胸にしまったまま家族でいたい。許されるなら。でも、島に帰るなら…家族で居られる自信が無いの。私を置いて行って欲しいの」
あぁ、そうなんだ。こういう時どうするのが正しいんだろう…酷く悲しい。僕を、家族を裏切りたく無い、正しい自分でありたいとする聖子は酷く悲しくて、残酷だ。
怒ったり、縋ったりしてあげない僕はもっと残酷だろうか。
「僕と別れてあいつの所に行きたい?」
どうしてそんなことを聞くんだろう?
「そうしたく無いから話したの」
それは正しいこと?
「あいつを好きなまま僕と暮らすの?」
意地悪では無い。それが可能なのか本当に疑問なんだ。
「あなたを、嫌いになったわけじゃ無い。あなたが好きよ。でもこれ以上、石守さんと関わったらあなた以上に好きになってしまう気がする。今ならまだ淡い苦い思いを思い出として胸にしまって、忘れて生きられると思うの」
本当だろうか?そういう思いって募るのでは?
「あなたも家族も大切なの。だから、壊さない努力をするわ。だから…島に帰るのはやめてほしい」
それは本心?帰りたく無いという本心が作り出した言い訳だったら、笑って許してあげられる。でも…聖子はそんなことはできない。好きなものは好き、受け入れられないものは受け入れられない。潔く不器用な正義感を持っている。
聖子は泣かない。今、ここで泣く女にはなりたく無いと思っている。だから僕は彼女をげんなりした気分で見下すことができない。胸を張って、自分を傷付けながらそこに居る。
「でも、僕は仕事で行かないといけないよ」
「分かってるわ。だけど、私はこの仕事から外して欲しいの」
その申し出も思いがけなかったし、仕事の面では痛い。個人的には勿体無いと思う。一緒に僕の仕事を分かち合えないなんて…
「映画が気に入らなかった?」
聖子は首を横に振った。
「逆よ。あなたたちに嫉妬する位」
誰を思って嫉妬するのだろう…?それが聞けなかった。
僕は聖子を見つめ、これが冗談や、何かのいたずらや、気の迷いでは無いんだな…と状況を噛み締めた。
「分かった…仕事からは外すよ」
「ありがとう…」
聖子はホッとした顔をした。惚れた相手には会いたいものじゃ無いのか?と思うけど。
僕は聖子と光を東京に残して帰郷した。どんな顔をして石守を見たら良いんだろう。聖子には、彼は何も知らないし知らせるつもりもないから何も言うなと言われた。
「今回は嫁さん置いてきたんかい」
石守は本当に何も知らないようで、呼んでもないのにやってきてそう言った。アレコレ考えていたけど、実際彼を目の前にすると力が抜け、彼のペースにハマってしまい
「おまえ、暇なの?」
そんなことを聞いていた。
岸川さんがすべての書類を整え待っていた。僕は忙しい。でも…
「石守の歌も聴きたいんだけど、ライブしないの?」
僕が言うと、石守は目を見開いて、
「誰のために歌うたらええんや思うとった!」
そう大げさに嘆いて見せた。
張り切って仲間に収集をかける石守を置いて、僕らは家から数百メートル離れた古民家に向かった。島には平行した二つの山脈があり、その間の平野に人口の多くが住んでいる。大きい方の山脈に向かう田んぼの中の一本道の先に、山脈を背にその家は立っている。
メイン道路に面した廃田を横目に山に向かって道を行く。道の両端に用水路が流れ、田んぼのあぜ道には、昔から枝豆や野いちごが植えられている。
よもぎやシロツメグサも茂っている。春先にはスミレやタンポポが花開く。
「昔のままですね」
僕が言うと
「リクエスト通りですよ」
岸川さんは自慢げに答えた。
田んぼの中の民家は田舎の家らしく縁側に面した大きな庭を持ち、納屋も立派で、枇杷や無花果や柿や栗の木があり、そして…
「本当に、リクエスト通りです」
僕が満足して頷くと、
「あなたが子供の頃のここいらの一般的住居のイメージですから」
そう言って嬉しそうに笑った。
僕は納屋の前に広がる畑を眺めた。
ここにトウモロコシやトマトやキュウリや芋を植える。
おばあちゃんの家のイメージだ。都会育ちの子供が、夏休みにおばあちゃんの家にやって来て、山に行ったり、海に行ったり、庭の畑で野菜をもいで食べる。
「あれ。岸川さんと、川島先生の坊ちゃんかい?」
更にイメージ通りの老婆が現れた。
「この家の管理をしてくれている瀬田さんです」
岸川さんに紹介され、
「お世話になります」
と頭をさげる。
「あらあら。さすが東京に住んでるとお行儀が良いねぇ」
そう言いながら、畑の雑草を抜き取る。
「家の持ち主が島外の息子夫婦に引き取られたのが昨年末なので、空き家になって間がないですし状態は良いです。改築や修繕は東川建設が協力したいと言ってきています」
「東川…繁君か。確か、父の教え子ですね」
「そうです。代替わりして今は息子の繁さんが社長です」
「助かるな」
「田んぼと畑は、仰っていた八田さんが減農薬法で請け負ってくれるそうです。条件はこれで了解もらっています」
「うん。軌道に乗ったら待遇改善も考えるので、ひとまずはそれで。彼の部下も会社で雇ってください。地元の人が良い。後、経理は経理で必要ですが、食堂の方の店長を置きます。基本の接客は近所のお婆ちゃんのイメージですから。瀬田さんを中心に」
「瀬田さんが婦人会で呼びかけてくれています」
うん。と頷いて
「料理人の方の公募は始めているので、メインの料理はそれから決まりますが、もう一つの売りのお惣菜はどうですか?」
「庭の野菜をもいでお婆ちゃんに作って貰う地元料理のお惣菜ですね。こちらも婦人会で各家の家庭料理の案を出して試作を行っています」
「各季節でお願いします。山菜とかも使って。うちの山を解放して山菜採りも考えているので」
「良いですね。それはある程度定番的なメニューが色々あるので」
「後は筍も、ウチの山の家で取れるので案に入れてください」
「春先は豪華になりそうですね」
「この島が一番輝いている季節だと思っているので、ぜひ春にももっと多くの人に来て欲しいです」
僕のそんな戯言を岸川さんは嬉しそうに聞いている。
「必要な限りの厨房防災機器も揃えるので、色々視野を広げてメニュー作りをお願いします」
「分かりました」
岸川さんは熱心にメモを取っている。
「後は、観光シーズン以外の経営ですが、公募の方のメニューがメインになります。古民家カフェ。地元に残っている若者がターゲットです。ここの一階部分でミニライブや映画の上映や試写を行うようにするので、防音をして…オープンイベントを2ヶ月後に行いますので、早急に業者を入れましょう」
「リクエストの通り、厨房とトイレ設備の衛生面には妥協をしないということで手配しています。他は本当に、古道具で?」
「そう。都会の人が田舎に求めるのは中途半端な便利さや都会の模擬じゃない。田舎ならではの不便さです。だけど、譲れないのはトイレと食品への衛生面での信頼ですから」
「なるほど。勉強されていますね」
「いやいや…素人ですよ。でも色々な世界の映画はたくさん見ています。成功や失敗。実話ものは得るものが多いんですよ」
「そういえば、映画業界においででしたな」
僕は控えめに頷く。色々なものが繋がって、僕の目の前の扉を開く鍵となってくれている。考えついた道へのドアが次々と開き、目の前が開けていく。
改装のデザイン画を岸川さんに託し、僕は高校時代の同級生の実家の地元で最高級の寿司屋に向かった。
地物を使った創作料理に力を入れている割烹だ。
「真!久し振りだな〜」
「川藤?おまえ変わったな〜すっかり板前じゃないか」
カウンターから出てきた旧友と挨拶を交わした後、先代の父親と兄で今の板長に挨拶する。
「川島君、垢抜けたな〜すっかり都会の人だ」
挨拶を済ましてから、料理をご馳走になりながら依頼していた話を詰める。
島の食材を使った料理コンテスト。料理部門の審査員長を頼んでいる。
「応募は83件ありまして、これが2次審査に推す候補です。一応ふるいに落ちたものも纏めてあるので、目を通して下さい。2ヶ月後のopenに向けて、1ヶ月後の二次審査で実際に作って貰い更に絞って、open時のイベントで一般公募した審査員の審査委員長として参加して貰いますので」
「なかなか面白いことを考えついたね。島の発展のためだから協力させて貰うよ。お父さんには世話になったしね」
先代はパラパラと書類をめくりながら快く引き受けてくれた。
「宜しくお願いします」
僕は頭を下げる。親の七光りを嘆いていたけど、今は父に守られている気分だった。
カフェ部門は東京で審査を行う。条件は一定期間島に住み、スタッフを育てること。永住しろとは言わない。でも望むならば、してもらって構わない。島の若者を、カフェで料理出来るまで育て上げてほしい。彼らが魅力を感じる仕事が島には必要なのだ。
近年は島に移り住みワイン造りやパン作りをする職人達もいる。彼らの作り出すものも積極的に使いたい。勿論元々の島の日本酒も揃える。
器は地元の無名異焼をメインに使う。これは問題が無い。父のコレクションが売るほどあるし、僕も良く連れて行かれた工房には父の友人の陶芸家がいる。父が良くオーダーをしていた。結婚式の引き出物も彼の作品にした。彼は快く僕のリクエストにも答えてくれたし、娘が嫁いだ先の陶芸家とも懇意にしていて、彼の作品は比較的カジュアルなのでカフェでも使い勝手が良いだろう。
看板やメニューは「俺に書かせろ!」と言ってきた島の書道家が居て、彼の作品は実家の座敷にも飾ってあるので信頼できる。
父の還暦に何か贈りたい!と書いてくれたものだ。そういう人なのだ。
ライブハウスは大きくはないが、島出身でバンドで東京でも活躍している青年を見つけたので、彼らに協力して貰い、必要最低限に気持ちよく演奏出来る箱を作り上げられる段取りだ。庭で野外ライブや観光客向けに郷土芸能の能楽鑑賞もできるステージも作る予定だ。
映画の上映は、機材は勿論自分のコネで用意する。映画館と違ってバーのような雰囲気で、カウンターやテーブル席で食事やドリンクを飲みながら鑑賞する感じ。試写をする時はもうちょっと集中して見て貰えるような環境に切り替える。
そう。〜Tonyの詩〜の一般試写会の皮切りはここになる。
Tonyが嘗て訪れたこの島に、映画に出演してくれた音楽家達の多くが集まってくれる。彼らの小さなliveもする予定で、それを目当ての外部からのお客も受け入れる。そんな一大イベントを作り上げる。
その日の夜。石守のバンドを古民家に呼び寄せ、彼らの演奏を聴いた。
何度も聞いたはずなのに、なんとなく耳に残っていたメロディーを改めて聞いてみると、石守の歌う歌詞は、僕の心の中心にコトンと音を立てて落ちて来た。爆音の中で、誰も気付かないような自然で当然という感じで。
「お前の歌の歌詞、良いな」
そう言うと
「おっさんになったから染みる歌詞やで?」
そう言った。そうかも知れない。でも聖子の心にも染みたのだから、女性にも共通するんだな。
「おまえって、モテたっけ?」
そう聞くと
「何でや。惚れるなよ」
そう言われた。
「俺は惚れないけどね」
この男に聖子は惹かれている。それなのに僕は悔しい思い以上に、そうだろう?良いだろ?という気持ちになっている。流石、聖子は目が高い…と思っている。
でも今はまだ譲るつもりはない。僕と聖子は一心同体なんだ。同じものに惹かれ、同じ方向を向いて進む。だからその時まで精一杯足掻こう。
満を持して、石守に2ヶ月後の計画を打ち明けた。
「おまえのバンドにも、こけら落としに出て貰うから」
僕の言葉を受け、暫し呆然と僕を見つめた石守は、
「マジか」
やっとそう言った。
「Tonyの詩は絶対だけど、その他にも持ち歌を歌って貰うよ」
「あ、ああ…」
そう言った後
「マジか…おまえ」
もう一度そう言って
「いや、凄いやん。おまえ何考えてんねん。何やねんその発想。おもろすぎるわ!」
石守は徐々に興奮し、背後の大きな民家を振り返る。暗闇に溶ける家の全貌に視線を巡らせ
「おもろいやんけ」
興奮気味に呟いた。
「東京から数組バンドを連れて来る。僕は良く知らないけど、今バンド音楽の勉強中だから。こっちでおまえが推すバンドがあったら出て貰えるよう交渉して」
「ええよ。親父さんに世話になってた奴らばかりやから、皆喜んで出るわ。無償で」
「ちゃんと払うよ」
僕は笑って答えた。ここでも父だ。あの人はもういないけれど、僕にたくさんのモノを残してくれている。
聖子、こんな面白い事に参加しないなんて、君はすごく損しているよ。僕はこの興奮する体験を、君と一緒に味わいたいんだ。
東京に戻り、早速カフェ部門の一次審査の書類選考をする。
僕だけでは心もとないので、僕がお手本にしたカフェ、聖子にプロポーズしたあのカフェyellowtableに協力を頼んだ。
「ちょっと出掛けない?ランチ付き合って」
仕事の昼休憩を見計らって聖子に声をかけると
「忙しいんじゃないの?」
驚いた顔で返された。
戻ってからも忙しくしていたのは事実だけど、何となくお互い気まずい空気にならないよう距離を置いていた感は否めない。
僕は聖子を伴って例のカフェに向かう。
何か深刻な話をされるのではないかと思っているのか、聖子は緊張気味だった。
いつもと違う雰囲気の店内で僕たちが席に着くと、それをスタートの合図に料理が始まる。
「ねぇ、メニューは?注文はしないの?」
聖子は不思議そうに店内をキョロキョロ見ているが、僕が説明する前に、候補者達の料理が運ばれてきた。
島の食材を使う…という縛りはあるがジャンルは色々なカフェ部門。シーフードを使ったものや米や米粉を使ったもの、柿などのフルーツを使ったサラダもある。
それらの料理と僕を見比べている。
「食べて。どれが一番好きか教えて」
「どうして?」
「食べ終わったら教える」
細かい事にこだわらず、気に入ったものを選んでもらいたかったから。
南蛮海老のアヒージョ、夏野菜の米粉フリッター、柿のデザートも気に入ったようだ。女性に受ける。それがヒット作の大前提だ。
他の審査員たちの審査も進んでいる。この店の常連たちに審査員募集をして決まった人たちだ。食事、dessertを含めて30種類くらいの候補作が出され、審査された。
「どうだった?」
僕が聞くと、
「これは何?何かのモニター?」
そう聞き返された。
「そうだな…新規openするカフェのメニューの審査」
僕が正直に答えると、あぁ。という顔をして改めて料理のリストに目を向ける。
「結構、レベルが高いのね。料理の素材が良さそう」
そりゃそうだろう。僕の故郷の食材を直送して提供しているのだから。
「料理に点数をつければ良いの?いくらが妥当かのアンケートもあるのね。どういう状況で食べたいか…そうね…」
聖子は真面目にアンケートに取り組みだした。
その間に席を立ち、店長の森元さんに挨拶をする。
「ウチでも使いたくなるような食材とメニューですよ」
「ありがとうございます。仕入れるなら口を利きますよ」
「食材はウチには贅沢過ぎるけど、米粉やバターは使ったメニュー試したいな」
「今回たくさん持ってきているので、良かったら試供品として置いていきますよ。試してください」
「良いの?助かるな。それと、openお手伝いしに行きますよ。研修兼ねて。この店はスタッフに任せて大丈夫だし」
「そんな。そりゃ心強いですけど…ご迷惑では?」
「全然。俄然興味が湧いてきました。田舎の古民家カフェは憧れだし」
「こちらからお願いします。日程組みましょう。カフェ部門の店長を育ててください」
思いがけない申し出に話がトントンと進む。物事が上手く行く時ってこうなんだな…僕は無難に生きてきたから、こういう興奮を味合うのは本当に初めてだ。
「川島さん、今日は呼んでくれてありがとうございます」
そう声をかけてきたのは、島出身のバンド青年徳永一君。ドラムをやっている。
ライブハウスについて調べていたらYouTubeに引っかかってきたバンドで、コンタクトを取ってみたら父の校長時代の生徒だった。島にライブハウスを作る話をしたらノって来て、規模や機材の事や色々相談をしている。openイベントの出演バンドの一つだ。
「いつも食べていたものが、こんなに洒落て出てくるなんてびっくりです。ウチの紅一点も夢中で食べてますよ」
彼のバンドには女性がいる。それが珍しいのかどうか、僕にはわからないけど。
「あと、あっちはイベントに誘ったバンド二組です。CD渡すんで聞いてみてください。時間があったらライブにも招待しますけど、忙しいですよね…?」
「いや、時間を作っていくよ。僕も勉強しないとね」
「マジですか。じゃあ、俺たちツーマンやるんで、来てください。入り口で言ってくれたら分かるようにしておくんで」
石守は別にして、バンド関係の知り合いは皆無だったので、彼に出会えたのは大きかった。やんちゃな人が多いのかと引き気味だったけど。皆気さくで、意外と礼儀正しくて、シャイで、純粋だった。そうで無い人もいるのかもしれないけど、少なくとも僕が知ったバンドの人たちは、そうだった。僕はきっと偏見で見ていたのだ。初めて島のイベントドームで歌う石守たちを見た時のように。二組のバンドのメンバーを紹介され挨拶を交わし、席に戻ると
「何が起きてるの?」
流石に聖子もただのモニターでは無いと感じていたようで、きっぱりとした口調で質問された。
「うん。〜Tonyの詩〜試写会で分かるよ。その時だけは、一緒に来て欲しい。その後の判断は君に任せるから」
僕の言葉を黙って聞いて、問い詰めるような目で僕を見つめていた。
その後…どうなることを想定しているのか…聖子がそれを気にしないはずが無いだろう。
僕たちはどうなるのかな…でもこのままで良いはずは無いんだ。君は石守に会わないといけない。そうしないと君は先に進めないんだ。
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