第2話 女神との話し合い 【挿絵】

 俺は人が話をしている時には口を挟まないよう心がけている。なぜなら、話を遮られて喜ぶ人はいないし、相手の話をよく理解することができるからだ。…が、流石に今回のことは一度に理解して飲み込むのは無理そうだ。


 要約するとこういうことだ


①全ての人間は生まれる前から死ぬまでの間、女神によって管理されている。

②女神は複数いて、各女神が複数人の人間を管轄している。

③今、目の前にいる女神、”レア”の管轄に高校3年生で不運にも事故死した俺、”四宮渉しのみや わたる”が入っている。

④全ての人間は生まれる前に身体能力・知力などのステータスに加え、”運”が0~100の間で振り分けが行われる。

⑤それなのに、レアの不手際により、俺に振り分けられるはずだった運が振り分けられず、普通の人間なら50あるはずの運が0だった。

⑥あらゆる不幸を背負い、俺、死亡

⑦レアが、俺が死んだあとの手続きをしている際に、自分の不手際に気付き、俺に謝罪に来た。


 「ここまではOK?」

 俺は、無理矢理、笑顔を作って聞き返したが、顔は引きつっていたかもしれない。


 「……はい」

 レアは消え入りそうな声で肯定の返事をする。まるで俺が女の子をいじめているようなのであまりこの絵面はよろしくない。


 「まあまあ、で?なにか解決案があって話をしに来たんでしょ?ほら、もう一度、元の世界に復活とかさ!」


 「えっ、それは無理ですけど…」


 「――は?」


 「だって…、同じ人間をもう一度現世でやり直させたら私のミスが上にバレちゃいますし…」

 「私、こう見えても割りと偉い立場の女神ですし…その…私の経歴にキズが付きますし…」

 「今まで小さいミスは揉み消して来ましたけど流石に今回のはマズいって言うか…」


 「…」

 「…」


 なーるほど、清純そうな見た目しといてこの女神、アレか、真面目系クズか。


 「別にそのまま俺を死なせておけばバレなかったんじゃないの?」


 ふと疑問に思ったことを聞いてみる。


 「そういうわけにも行きません。理不尽な死に方をされた人間には女神が話を聞く場が設けられます。そこで今までの不幸体験とか他の女神に話されたらそこから私のミスがバレるかもしれないじゃないですか!」


挿絵(By みてみん)


 ほーん、この女神。一発殴ってもいいだろうか。


 「では本題です。これからあなたは他の女神と話をしてから今後の死後の世界についての話をされる思いますが、その時に『俺の人生は幸福で何一つ文句はありませんでした』と笑顔で言って下さい。わかりましたね?」


 「…嫌だね」


 「へ?」


 「嫌だっつってんだよぉ!自分のミスで人の人生最悪にしといて謝罪だけで済むと思ってんのか!他の女神との話し合いだったか?そこで、ただでさえ不幸だった俺の人生をさらに改悪して伝えてやるから覚悟しとけよ!あと、お前のミスもチクる!」


 ハァハァ…、怒りが爆発して女神相手に結構ひどいこと言っちまったか…?でも相手が悪いしこういうことはハッキリ言っとかないと…


 「…ッ」


 レアは口を閉ざしたまま、俯いている…。ヤバイ、言い過ぎたか…?


 「お願いします!他の女神には言わないで下さい!私にできることなら何でもしますから!」


 顔を勢い良くあげ、こちらを見つめながらレアが懇願する。

 よかった、逆ギレとかされたらどうしようかと思った。


 「なんでもって言われてもなぁ、俺は不幸じゃない人生をもう一度送りたいんだけど…」

 「でも、それ無理なんだろ?」


 「無理ですよ、”元の世界”に戻るのは」


 「だよなぁ…、ん?今、元の世界はって言った?」


 「はい、あなたが存在していない世界なら問題はありませんよ」


 「そうか…!異世界なんて考えもしなかったが、むしろいいんじゃないか?受験勉強とかもしなくていいしな!うん、そうしよう!」

 「ちなみに今回の転生での俺の運の振り分けはどうなるんだ?」


 「それは私が行います。ぶっちゃけ女神の仕事なんて人間のステータスの振り分けだけですから、簡単なので別にどこででもできますし」


 ――ニヤッ

 とても良いことを聞いた。


 「じゃあ、運のステータスは上限一杯の100で」


 「…えっ?」


 レアが不意を突かれたような声をあげる。


 「俺の運を100にしろって言ってんの!MAX!OK?」


 「OKじゃないですよ!普通なら高くても80とかなのに!私が振り分けした人で90を超えた人なんて…」


 「…バラすぞ」


 今までの俺の人生で一番低い声で言った。


 ――ビクッ

 レアの体が震える。この女神、もしかすると、とても扱いやすいかもしれない。


 「それじゃ、具体的な転生先を決めようか、レア」


 笑顔でレアにそう言う。たぶん、あまり人に見られたくない笑顔をしていたと思う。

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