その後
一時間目の後の休み時間になってしばらくすると、香織が俺の方に来た。
「……嘘つき」
小さく、でもはっきりと香織は言った。その表情は怒っているように見えて、内心ビクビクしながらもそれに答えた。
「嘘つきって、今朝のこと?いや、でも、ほら、こうしてちゃんと学校に来たし……」
「追い付く、って言った」
「いや、あの、ああ言わないと香織まで遅刻することになると思ったから……」
「でも、あたしは……」
続きを待っても俯いて何も言わない。永遠とも思える沈黙の後、香織が口を開いた。
「いっくんのバカ!」
「その、ごめん。どうしたら、許してくれる?」
香織が何にそんなに怒っているかは分からない。でも、俺が悪いことだけは分かった。だから、とりあえず、謝ったんだけど……。
しばらく待つと、香織は俯いたままで静かに声を発した。
「プリン」
「え?」
「今日の給食のプリン、あたしにくれるなら、許してあげる」
「分かった。あげる!」
そう言うと、香織は顔を上げた。その表情は、眩しいほどの笑顔だった。
俺はその表情に見とれて……違う、突然の変化に驚いて、何も言えなくなった。
「今度こそ、約束だからね。守らなかったら、絶対に許してあげないからね」
言葉とは反対に、口調はすごい嬉しそうだった。だから、俺は自然と笑顔になった。
「うん、いいよ」
「やった!ありがと、いっくん」
もしかして、さっきまで怒ってたのって、演技?プリンもらうために?たしか香織の好物って、プリンだったような……。
そんなことを考えていたら、香織は急に真面目な顔になった。
「ねぇ、でも、何であんなこと言ったの?あたし、寂しかったんだよ?」
「え?いや、だから、香織まで遅刻することになりそうだっから……」
「そうじゃなくて、言い方。『俺に構わず先に行け!』って」
「…………一度、言ってみたかったから」
誤魔化そうかとも思った。でも、香織の顔を見てたら、つい本当のことを言っていた。
香織は……笑いをこらえてる?え?何で?あんな台詞、憧れるだろ?それで、言うチャンスがあったんだから、誰だって言うだろ?なのに……。
「ぷっ、は、ははははは!何、それ?もう、またいつもの変な妄想?」
「も、妄想って……そ、そうだけど」
つい、視線を逸らして言ってしまった。そんなに笑わなくても……。
と、授業の始まるチャイムが聞こえた。
「でも、それでこそいっくんだよね。それじゃ、プリン、忘れないでね。絶対だから!」
「うん」
自分の席に戻る香織をしばらくの間、深い理由もなく見つめていた。
最初は怒ってるかとも思ったけれど、最後には笑ってくれた。それだけで心の中が温かくなった気がした。
それにしても、プリン、そんなに食べたかったのかな……?
────────────────────────────────
プリンなんて本当はどっちでもよかった。朝話せなかった分、話したかっただけ。
ねぇ、いっくん、知ってる?あたしはいっくんと一緒がいいんだよ?例え、それが───
許されざる
言の葉の裏の 星成和貴 @Hoshinari
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