第6話 LARPゲームの初期投資は高いの?
LARPゲームを広めようと、様々にお話すると、決まってこんな言葉が返ってくる。
「でも、敷居が高そう」
この言葉、もうウンザリするほど、必ずと言っていいくらい耳にしてきた。
とはいえ、衣装を着てキャラクターとして発言して……ということにハードルを感じてしまう方がいるのは分かる。分かるのだが。
「だって、この衣装とか、どこで買うの? きっと高いんでしょ?」
「LARPゲームって初期投資が衣装と道具だけで10万とかしそう」
ちょぉぉぉっと待ったァ──!!!
それはいくらなんでも、「西洋の全身甲冑は60kgあるに違いない」とか平気で言い放ってしまうくらいの偏見! それはLARPゲームを広める身として、黙ってはいられない!
というわけで、今回は「LARPゲームの初期投資」について考えたい。
まず、衣装。
海外は当然LARPゲームが盛んであるからして、流通豊かだ。衣装も専用のものが販売され、豊富な需要に豊富な供給、自然と価格はそこまで高くはならない。せいぜい、布の衣装で1着30〜50ドルといった所だ。
とはいえ、場所が日本となると、状況は変わってくる。
流通もほぼ皆無、手作りに頼らねばならない状況。海外の流通を頼れば当然渡航費や税関で余分に費用を取られてしまう。
では、我々はどうしたか?
例えば、カーミニアLARPが発足した当時はもっと厳しい状況だった。LARPという言葉はもはや日本で知る者は極わずかに過ぎず、衣装の揃え方など分かる術もない。
そして、著者も、パートナーの星屑も、裁縫スキルなどからっきしだ。
これは困った。ゲームがスタートできない!?
ここで一つの方法が提示される。
カーミニアLARPを開催したキャッスル・ティンタジェルの、LARP衣装販売だ。
こちらにより、プレイヤーの大半はこちらを購入することができた。(星屑も、当時こちらで購入している)また、有料のレンタル衣装も設けられていた。
しかし、である。
著者はとにもかくにも、貧乏であった──
当時はちょうど個人事業に切り替え直後であり、その全容は割愛するが、自由になる金などほんのわずかだ。電車賃だって気軽には支払えないくらい困窮していた。
そんな状態の人間が、LARPゲームの衣装なんか揃えられるというのか? 大体の人間は、ここで早々に諦めてしまうだろう。
しかし私は、不屈の闘志でこれを乗り切ったのだ。
「うーむ……中世ファンタジー的な衣装というと、言ってしまえば史実の14〜15世紀中世ヨーロッパとそんなに大差ないみたいだな。ひとまず、足先まで長いスカートなんかは、動き回る上で危ないからパス。布のズボンでいいや」
ひとまず、出来るだけ現代と近いものから考える。ブーツとズボンなら、簡単に手に入るだろう。しかし問題は上半身である。
「中世ファンタジーと名のつくイラストを見る限り、襟が無い方がそれっぽいんだなあ。女性だと肩・鎖骨あたりがガバッと無い襟ぐりか。ふむふむ、あとチュニック……ああ、あの妙に裾が長くて、ベルトを締めるとそれっぽくなるアレか。ん……チュニック?」
そういえば、最近(2012年当時)、女性のファッションの中に「チュニック」と呼ばれるものが出てきていたような──
「こ、これだぁぁぁぁッ!!!」
そう、チュニック!!
これこそが、突破口となった。
私は急いで、近所の古着屋に直行。白や茶、黒といった無地アースカラーで作られた女性用チュニックを探しに探した。すると、300円や500円という安価な価格の中で、自分のサイズに合ったものを購入できたのだ!
ついでに、男性用として大きめクルーネック(襟なし)の麻で出来た服もゲットである。こちらは、パートナーの星屑に以後長く着てもらうこととなる定番服となった。麻で作られていると風通しも良く、素朴なキャラクター付けができてオススメだ。
さらに、ベルトやズボンも安価に手に入れた。フェイクレザーのベルトに通すバッグは、元々新品で買っていたものを流用。ブーツは中古では無かったため、ユニ◯ロにて新品1990円のものを購入することにした。マントは、昔、日暮里の繊維街で購入した1m100円の黒い安布を四角に切って、角二つに安全ピンを通しただけ。
たったこれだけで、なんとも中世ファンタジーから抜け出たかのような服装に仕上げることができたのだった。
チュニック ……500円
ズボン ……300円
ベルト ……100円
腰バッグ(流用)……980円
ブーツ ……1990円
1mマント ……100円
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合計3970円
なんとお手軽、なんと格安!
衣装合計5000円もいかない、超お手軽コーデだ!
そして次に必要なのは、道具。
先に武器と防具!! と言いたい所だが、そこを加味してしまうと
そういうわけで後は道具だが、これが実に簡単、しかも安価で済ませることに私は気づいた。それは──
「日本には、100均ショップという武器があるじゃないか……!!」
海外にも似たような店はあるが、日本ほど流通が発達してはおらず、この100均ショップの品揃えは大きなカギとなった。
ベルトに下げる布袋は、魔法の構成要素(要するに、魔法を唱える際に必要な呪術的な道具のことだ)を持ち歩くのに必須となるが、適当な白い無地の巾着袋が100円で売られていたりする。プリントされていても、裏返せば問題無い。
錬金するための道具も、適当なすり鉢、すりこぎ、小瓶とガラス玉で無問題。神聖魔法を唱えて神に祈るための聖具も、適当に購入したペンダントでOK。
盗賊のキーツールは大工の黒い金具で代用できるし、ロープや包帯も適当な長さのものがゴマンと置いてある。本当に良い時代だ。
そんなわけで気がつけば、2000円くらいで、必要最低限の道具を取り揃えることに成功した。
総合計10970円ほど。剣を購入しなければ、6000円程度で済んだ計算になる。
スタート費の価値観は人によって賛否両論はあるだろうが、自分としては悪くない金額だと感じた。もしこれで万一ゲームが面白くなくて、衣装が無駄になったとしても、現代服の古着ばかりなので、そのまま日常にも応用できてしまう。道具もいわずもがな。
しかし正直な所、これでいいのだろうかという不安が無かったとは言えば嘘になる。皆、もっともっと超絶高い装備と服装で整えてくるのでは無いか? 自分は場違いなのでは? と、苦悩しながら、遂にカーミニアLARPゲーム初日を迎えてしまった。
でも。
(あれ。意外と、馴染めてる?)
そりゃあ、高い防具や剣、衣装を買い揃えた猛者もいる。
しかし、自分と同じように、予算と相談しながら衣装と道具を揃えたゲーマーはたくさん居たのだ。その上、ゲームに入ってしまえば、そこに上下は存在しない。恥ずかしいとも思わない。むしろ、そんな自分が冒険者としてグッジョブな働きを行っていることに、誇らしさすら覚えた。
(そうか……『恥ずかしい、見下されるだろうか』なんて変なハードルをわざわざ作っていたのは、自分自身だったんだな)
高い装備と安い装備は、上下なく共生できる。
その「場」に、「高い装備が正しくて偉い、高い装備こそ至上」みたいな、妙な考えが蔓延しない限り、ハードルは存在しないのだ!
聞けば、今やコスプレイヤー界隈もこのような考えが蔓延し始め、息苦しくなってきている「場」もあるという。こういう衣装に凝るイベントというものは、「自らの努力を認めてもらいたい」という気持ちから、そういった偏った考え方の押し付けに発展していってしまうのかもしれない。
この時感じたことは今でも活かされており、レイムーンLARPでは特に、『衣装・装備に対して優劣も貴賤も存在しない』という考え方を徹底している。
コミュニティ自身の息苦しさこそが、楽しさの拡散を妨げてしまう。それだけは、なんとしても避けたい。ただでさえまだまだコミュニティが小さいというのに、歪んだ考えで自爆するなど、笑い話にもならないだろう。
これで、LARPゲームをスタートするにあたり、「初期投資が高そうだからハードルは高い」という意識を少しでも払拭することが出来ただろうか? 著者は思うに、ハードルを設定するのはあくまで本人次第であると考える。実際の所、遊ぶ「場」がそういったことを求めない限りは、安価で始めることは可能なのだ。
むしろ必要なのは、そういった新しい「場」に飛び込む勇気なのかもしれない。そればかりは、それこそ、本人次第としか言いようがないけれど──
これを読んで興味を持ってもらえたならば、小さくても、確かなその勇気を、新しい扉を開く鍵として使って欲しい。そう思うのだ。
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※2016.5.19追記
こちらの記事を書いた所、ツイッターより現役メンバーの反響を頂き、皆それぞれ初期装備は何を取りそろえたのか、初期投資額はどれくらいであったかを書いて頂けました。以下、リンク先をご参考下さい。
【リアルRPG】中世ファンタジーゲームの初期投資はいくら?現役メンバーが回答!
http://togetter.com/li/976990
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