第3話 妹の生活改善と生徒会

 家に着く頃には、日は完全に沈んでいた。


 家に入ると、リビングに明かりが見えテレビの音も聞こえてくる。


「奈瑠、ただいま。今から飯にするな、少し待ってろ~」


 リビングのドアを開けながら晩飯のことを考える。


 特に奈瑠の反応はない。まぁいつも通りソファで寝ているかテレビに集中しているのだろうと思っていた。しかし、リビングのドアの向こうに見えたのは……


 床に倒れている奈瑠の姿!!制服のまま、うつ伏せで右手を前に伸ばして倒れている。あまりの出来事に駆け寄り奈瑠を呼ぶ。


「奈瑠、奈瑠!!どうしたんだ!!」

「すぅ~すぅ~」


 寝ている。寝息を立てながらまさかの床で快眠状態らしい。とりあえず、このままにしておく訳にもいかず奈瑠を抱えソファへ運ぶ。


 まず、奈瑠が無事だと分かりホッとした。何かの事件現場に遭遇するのはこんな気分なんだろうか。ついつい、近くに寄って被害者に触れてしまう第一発見者の気持ちが少し分かった瞬間でもあった。


 奈瑠がお休みの間に晩御飯の仕度を始めることにした。


 今日のメニューは、オムライスとサラダ、そしてコンソメスープ


 材料の仕込みは登校前に済ませてあったので単に盛り付けとチキンライスを作るくらいのことだ。料理は、一人暮らしをするまであまり得意ではなかったが、生活しているうちに徐々に上達した俺のスキルの1つである。


 奈瑠が来てからは、あまり時間を掛けず作ることを意識するようになり仕込みや下処理を事前に済ませて置くようになった。


 温かい物を食べる、しかも1人ではなく奈瑠と2人で小春が居れば3人で、そんな時間を幸せと感じることが出来たのは実家で暮らしていたら気がつかなかったことだろう。少し浮かれた気持ちで料理を仕上げていく。テーブルに2人分の料理を並べ奈瑠を起こしにソファへ。


「奈瑠、晩飯できたぞ。起きろ~」


 いつものように肩を揺らし奈瑠の起床を促す。


「今日のご飯何?」

「オムライスだ、温かいうちに食べなきゃお兄ちゃん泣いちゃうぞ」


 奈瑠が寝ぼけ眼で聞くのを冗談交じりで返す。


「オムライス~オムうどんじゃないの?」


 オムうどん、東城家では焼きうどんを卵で包んだ物をそう呼んでいる。


 奈瑠は、何かと言うと、「うどん」1択だ。3食+おやつ全て「うどん」で良いとか言い出すレベルだ。


「うどん切らしてるんだよ。今日はライスだ、ライス」


 うどんをライスで押し切ると、奈瑠がムクっと起き上がり、テーブルへ向かい椅子に腰掛けた。


「さぁ食べよう。いただきます」


 俺の掛け声に合わせ奈瑠も「いただきます」と手を合わせ食べ始めた。


「そういえば、奈瑠 なんで床で寝てたんだ?」


 先ほどの事件現場の原因を奈瑠に聞いてみた。


「あぁ、ソファでテレビ見てたんだけど、お兄ちゃんの帰りが遅いから、お腹空いたし冷蔵庫になにかないかと探しに行ったんだけど、冷蔵庫にたどり着く前に睡魔に負けた」


 軽く事件状況を語る奈瑠。


「……えっ?ソファから冷蔵庫までで力尽きたのかよ!!」


 まさかのことで全力ツッコミになってしまった。流石にこんな状態の奈瑠は危険すぎる。


「奈瑠、お前な、そんなんじゃ生活危険すぎるだろ。コンロ使って寝ちゃったりしたら火事になったりするだろ」


 妹に甘いと言われる俺でもそこはちゃんと注意した。しかし、奈瑠から返ってくる言葉は安心できるものではなかった。


「それは、無いよお兄ちゃん。私、コンロ使わないし、使いたい時は、お兄ちゃんか、こはるに頼むから」


 唖然として一瞬、言葉が出てこなかった。これは、奈瑠の生活改善を本格的に考えなければいけないと実感する発言だった。


「そっか……あのさ、俺これからも生徒会とかで遅くなる事あると思うんだ~そんなとき奈瑠どうするんだ?ご飯を食べずに待ってるつもりか?」

「そうだね。基本待ってるか、こはるを呼ぶつもり」


 どうやら、小春が生徒会に入ったことも忘れてるらしい。


 奈瑠から良い改善策が出ると願いを込めて聞いてみたが出ることは無かった。


「あの~小春は、今日から生徒会に入ったぞ。帰りも俺と同じくらいだろうし、そんなに来れないだろ、実家と違って家遠いんだし」


 俺の言葉に首を傾げながら不思議そうな顔をして


「こはる生徒会入ったんだ。知らなかったな~親友の私に隠し事なんて、明日お仕置きが必要だね」

「いやいや、入学式終わった後、うちで話してたぞ。昼飯食べながら」


 小春が奈瑠の理不尽なお仕置きを受けてしまわないよう先日の出来事を話す。


 奈瑠いわく、あの時は半分寝ていたらしく周りの会話はほとんど聞いていなかったらしい。


「ちなみに、お前帰りは1人で帰ってるのか?」

「駅まではクラスの子と帰るけどそこからは1人だよ。駅からこっちって一緒な子いないんだよね~」


 帰りに俺の考えていたことは当たっていたらしい。


 俺が一緒に帰れれば安心なんだけど、生徒会のこともあるし、なかなかそう言う訳にはいかない。帰りも1人、家でも1人。そんなことを考えると奈瑠に寂しい思いをさせて少し申し訳ない気持ちになった。


 食事が終わり奈瑠はソファでゴロゴロ、俺は食器を洗う。


「奈瑠の生活改善と寂しい思いをさせない方法は何か無いかな?明日、小春と相談してみるか」


 食器を洗いながら小声でつぶやいていた。


 次の日の放課後


 いつもの生徒会室、会長、未琴、俺。今まではこれで全員だった。


 今日からはここに、小春が加わり騒がしくなるだろうなと思っていると


「おつかれさまです~」


 小春がやってきた。これで新生徒会集合、すると会長が立ち上がり


「さぁて、小春ちゃんも来たことなので本日の生徒会を始めたいと思います」


 全員が席に就き会長が話し始める。


「えっと、新規部活の申請書についてですが、現在申請されているものについては、昨日、明人君と未琴ちゃんにチェックしてもらったので先ほど先生に提出しておきました。各部の備品については、各部から要望書が届いています。でも予算がまだ決まっていないとのことで、後日先生から予算書を貰ってからすり合わせしたいと思います。あとは、生徒からの投書ですが今日はありませんでした。新入生への説明も、まだなので今度の生徒集会で説明したいと思います。とりあえず今日のところはこんなとこなんだけど、何か意見や議題がある人はいますか?」


 ざっと会長の話が終わり、俺はスッと手を上げた。


「会長、今日の活動内容は?」

「えっと、実は特に無いんだよね~」


 会長がなんだか申し訳なさそうな笑顔を浮かべている。俺には都合がよかった。


「なら、1つお願いがあるんですけど、いいですか?」

「なになに?明人君のお願いなら、この奏さんに任せなさい」


 なぜか会長は、俺のお願いに対してニコニコしながら答えてくれようとしている。


「会長、そんな気合入れるようなことじゃないですし、俺個人のまぁプライベートな相談といいますか?そんなとこなんで……」

「なら、なおさら気合入れて聞かなきゃ!!明人君のプライベートな相談なんて聞いても教えてくれない、トップシークレットだからね。ささ、ここは生徒会役員にお任せだよ!!」


 会長はなんだかよく分からないスイッチが入ってしまったのかグイグイ寄ってくる。


 そんな会長を未確認生物でも見たかのように、小春と未琴が目を丸くして見ていた。


「と、とりあえず、落ち着きましょう。話しますから」


 会長のハイテンションモードを落ち着かせ、昨日の家での出来事を話した。


「あぁ~奈瑠とうとうそんな状態になっちゃったんですか。先輩が甘やかすから」


 前に言われたこともあり小春の言葉が心に刺さる。


「東城君の妹がそこまでとは、驚きね。もう少ししっかりしてると思ってたわ。学園ではどうなのよ?小春と同じクラスだったわよね?」

「はい、奈瑠は学園ではまぁ大人しいと言うか省エネモードみたいな感じですよ。休み時間とかは、話しかければ返答する、何も無ければ寝て充電みたいな」


 未琴が奈瑠の日ごろの様子を小春から聞く。俺も学園での奈瑠のことはほとんど知らなかったから、こうやって聞くのは新鮮だ。


「先輩、この前言ってましたよね、奈瑠の面倒見てくれないか?ってそれなら、奈瑠は実家のほうが良かったんじゃないですか?ご両親も居て安心じゃないですか?」

「いや、そうもいかないんだ。本当は、奈瑠は実家から通う予定だったんだけど、奈瑠が卒業する時くらいに父親が転勤で母親もそれについて行ったんだよ。俺は自立のために1人暮らし始めたんだし学園も近いから実家戻るの嫌だったんだよ。それで奈瑠が俺のとこに来たってわけ。転勤は、3年くらいだ戻ってくるらしいから学園に居る間は奈瑠のこと頼むみたいな感じでさ。だから、実家は今誰も居ないんだよ。」


 小春が「あぁ~」みたいな顔で納得していた。


「そりゃ、先輩も奈瑠みたいな妹が、自由気ままに出来る家に一緒に住むって言われたら普通断りますもんね。奈瑠の自由さと面倒を見なきゃいけない責任を考えると」

「小春、親友に対してなかなか酷い事言うよな」

「まぁ親友ですから」


 ニコッと笑い、親指を立ててグッと俺に突きつけてきた。

 流石、小春と言ったところか、俺との付き合いもそこそこ長いこともあって、こんな冗談は日常茶飯事ってことだ。


「それで、明人君は、どうしたいのかな?妹さんにどうなってほしいの?」


 会長が核心を突いてくる。


「俺は、奈瑠のことが心配で安心できればいいんですけど、生徒会をやっている時間何してるか分からないし、昨日みたいな事だってあるだろうし、それで生徒会に集中できないのはみんなに申し訳ない。それに、いつも1人でいる奈瑠のことを思うと少し罪悪感と言うか……そんな気分になるんです」


 奈瑠のことを甘やかしていたと小春から指摘を受け昨日まではそんなことないと思っていた。でも、あんな奈瑠を見たら心配で仕方なくなった。自分で考えても答えは出てこない。


「先輩、わたし良い事思いついたんですけど」


 小春がなにか名案を思いついたらしい。


「なんだ?ネタじゃないだろうな?」

「酷いな、先輩。わたしだってこんな時は真剣ですよ。いつも真剣ですけど」


 今日は、真面目に考えたらしい。


「それで、何を思いついたんだ?」

「いや、先輩が奈瑠を心配しているのは、家に帰っても何も出来ないって事と1人で寂しい思いをさせてるって言ってましたよね?だったら、その両方解決できるのは簡単ですよ」


 まさか、俺の悩んでいたことを簡単に解決できるすべがあるなんて


「ま、まじかよ、小春さん。でそれはどんな秘策で?」


 簡単と言われ驚きと動揺を隠せず聞く。


「たいしたこと無いですよ?奈瑠を生徒会に入れちゃえばいいんですよ。そうすれば、奈瑠が帰る時は、先輩も一緒ですし、家に一人になったりも無いですよ。それに、奈瑠が生徒会に入ってくれれば仕事も早く終わるじゃないですか」


 小春はいつもの冗談を言っている時のようにニコッと……してない。


 「あぁマジなのね」と理解した。でも、小春の言うこともあながち検討外れって事もない。そうなると、放課後もずっと奈瑠と一緒いることになる。確かにそれなら心配する必要もなし生徒会のメンバーがいるから寂しいって事もない。しかし、奈瑠が生徒会に入れるのだろうか?そこが疑問だった。すると会長が


「それ、いいね。小春ちゃん、ナイスアイディア!!入れちゃお入れちゃお!!」

「えっ!!会長そんな簡単に言っちゃってますけど大丈夫なんですか?」


 まさかの会長公認で奈瑠の生徒会加入がOKになるとは正直驚きの一言だ。


「そうね。奏先輩もそう言ってるんだし、妹さんに言ってみたら?」


 未琴まで乗っかってきた。


「じゃあ早速、先輩今日お邪魔しますね。奈瑠にはわたしから説明します。あと、いつも通り泊まりますんで」


 小春もテンション高めでとんとん拍子に話が進んでいく。


「これって先生とかに知らせなくても良いんですかね?」


 俺は、本当にこのまま話を進めて大丈夫なのか、半信半疑で聞く。


「あぁそれなら大丈夫だ」

「えっ?うわぁ!!鏡先生。いつからそこに!!」


 後ろから突然現れた、鏡先生に驚かされた。


「東城の妹が生徒会に入るだの何だのって辺りからだが?暇だったから様子見に来たんだが真剣な話してるみたいだったからしばらく見てた」


 生徒会顧問、暇な時しか見に来ないのはどうかと思うぞ、とか思いながら話を戻す。


「それで、うちの妹が生徒会入るのは大丈夫なんでか?」

「あぁ、別に問題ないだろう。生徒会にはあと一人誰か入ってもらおうと思ってはいたし、東城の妹は成績そこそこ良いって聞いてるぞ。だから、私としても問題はない。後は本人の気持ちしだいだからな。じゃ、そろそろ職員室もどるわ、入るなら生徒会加入申請書出すの忘れるなよ」


 そういい残し鏡先生は生徒会室を後にした。


 これで、一応問題が解決の糸口が見つかった。あとは、先生の言ってた通り奈瑠が生徒会に入る気があるかどうかだけになった。


 奈瑠の気持ちを確認する必要もあるので今日の生徒会はこれで終わることになった。


 普段と同じく、いや今日からは小春を加えてみんなで帰る。


 帰り道の話題は奈瑠のことだ。会長は、また新メンバーが増えると思い浮かれているし、未琴も冷静を装っているが後輩が出来ると嬉しそうだ。


 4人で盛り上がっているとあっという間に駅まで着いた。


 会長と未琴とはここで別れ、俺は小春と奈瑠の待つ家へ向かった。


 奈瑠がどんな反応をするか気になるがいい返事がもらえることを期待して俺は、小春と一歩一歩家へ向かうのであった。

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