第1章

第1話 うどんと妹と生徒会

 家に到着したのは13時を少し過ぎたところだった。

 今日は入学式と始業式があっただけで一般生徒は、11時には帰路についていた。


「ただいまー奈瑠、今から飯作るからな」


 靴を脱ぎながら家の中にいる奈瑠に呼びかけると


「せ~んぱい。お帰りなさい」


 予想外の後ろからの膝蹴りに体勢を崩し倒れる。


「こ、小春。お帰りなさい、じゃ無いわ!天へのお迎えが来るとこだったわ!」

「大丈夫ですよ。先輩は天へのお迎えじゃなく、地獄へのお迎えのはずですから~」


 悪戯な笑顔を浮かべた小春が茶化してくる。

 俺は起き上がり小春の頭をコツンと殴り部屋へ向かう。


「奈瑠はどうした?」

「あぁ、奈瑠ならソファで寝てますよ。入学式もほとんど寝てたのによく寝れますよね」


 ソファを見ると制服のままうつ伏せで寝ている奈瑠の姿があった。

 奈瑠を起こそうと肩を揺すってみる。


「小春~まだ眠いよ。あと1時間・・・・・・」


 寝ぼけているのだろう俺を小春と勘違いしている。


「奈瑠~俺は、お前の兄だぞ~起きないとお昼無いぞ~」


 耳元で呼びかけてみる。


「うぅ~お兄ちゃん?帰ったの?お昼は、うどんでよろしく・・・・・・」


 反応するもすぐにダウン。質問するだけして回答を待つこともないのか。


「はいはい、うどん作ればいいのね。小春、少し遅いけどお前も食べていくよな?」


 横でニヤニヤしながら兄妹を観察していた小春は、目を丸くして


「当たり前じゃないですか。うどんは、天ぷらでお願いします」


 最後はニッコリと親指を立てて決めてきた。まぁ、いつも昼飯時やら晩飯時にいる時は食べていくのが小春スタイルだ。


「はいはい。とりあえず作るか」


 小春をあしらいながら作業に取り掛かる。

 台所でお湯を沸かしながら、冷蔵庫へ向かいスーパーで3人前150円のうどんを取り出す。熱湯で3分茹で湯きりをしてどんぶりへ。出汁をかければ、かけうどんの出来上がり。小春は、そこに乾燥天ぷらを乗せて天ぷらうどんにして食べるのが好きらしい。うどんが完成し、奈瑠を起こす。


「奈瑠、うどん出来たぞ。冷める前に起きろ~」

「うぅ~わかった~」


 まだ寝足りないのだろう、うなりながらゆっくりソファから起き上がりテーブルへ歩き出す。3人が席に着き、お昼を食べ始めた。


「それにしても、先輩。奈瑠には甘いですね。こっち来てからは、奈瑠の言いなりですか?」

「そんなことは……無いはず。たまにこんな感じだけど……」


 小春の唐突な質問に思い当たることも多々あったため煮え切らない返答をした。


「お兄ちゃん。お茶出して」


 奈瑠の一言ですぐに席を立つ


「ほらぁ、またそうやって甘やかす~」


 無意識に近い反応を、小春が指摘した。


「いや、これは、俺が冷蔵庫に近いし、俺もお茶飲みたかったんだよ。小春も要るだろ?」


 誤魔化し半分、本音半分で小春に言い返す。


「まぁ良いんですけど。これから大変ですよ。学園でのこともあるので、ある程度奈瑠には厳しくしないと。生徒会もあるんですし」


 たしかに小春の仰ると通り、生徒会で遅くなる時は奈瑠は一人で俺を待つことになる。一人で何も出来ないのは、これからの生活に支障を来たすこともあるだろう。


 その時、一つ閃いた。


「小春、俺が生徒会で遅くなる時だけでいいから、うちに来て奈瑠を見ててくれないか?」


 我ながらなかなかの名案だと思ったのだが、その案は軽く崩された。


「あっ!それは、無理ですね。私も生徒会に入るので」


 小春の言葉に一瞬固まる。小春が生徒会に入る、そんなこと全く予想していなかった。


「こ、小春が生徒会に?なんで?」

「そりゃあ、先輩が居るからに決まってるじゃないですか。お家でも、学園でも一緒に居れちゃうんですよ」


 悪戯な笑顔の小春は、俺の反応を見たそうにしている。


「…………ずずずっ」


 無反応でうどんをすする。


「せん~ぱい~そんな顔しないで、いつもみたいにツッコミ入れて下さいよ。なんか、私がめっちゃ先輩好きみたいになるじゃないですか」


 小春がバタバタと騒ぐので仕方なく、相手をする。


「はいはい、で、本当は?内申か?」

「正直、内申も欲しいとは思うんですけど、折角なんで新しいこと始めようと思いまして、部活とかも考えたんですけど、先輩見ててなんか生徒会も楽しそうだなって思いまして」

「そんなに、俺楽しそうか?」


 小春の理由は、正直以外だった。たまに生徒会での話を奈瑠と小春にすることもあったが自分でそんな風に話してるなんて気づかない。


「はい、楽しそうですよ。なので楽しみなんですよ、生徒会」


 嬉しそうに話す小春を見て俺は少し和んでいた。小春が生徒会に入ることは別に嫌ではないし、むしろ歓迎する。とても意外ではあったけど。


 少し驚くこともあったが、お昼を食べ終え片づけを進める。結局、奈瑠のことをどうするか決めることも無く小春は帰っていった。奈瑠に厳しくと言われたが、それほど甘やかしている自覚は無い。


 ご飯は作れない、一人で家に居ると基本寝ているかゲーム。一人で買い物なんて考えたことも無い。出前くらいならできるかな?


 小春が心配するのも無理はないか……


 奈瑠の学園生活は、これからだし少しずつ直していく事にしよう。

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