第418話 同族の末路

 劉備と呂布は同族である。


 義に厚く、他人に優しく、礼を尽くすのが劉備であり、

 義は薄く、自分に甘く、礼を尽くさないのが呂布である。


 しかし、互いに義の素質を持ち合わせている。


 呂布は気付かなかったが、劉備は呂布の中に宿る義を感じ取り、そして同族たるもう一つの本質を見抜いていた。


 呂布が路頭に迷い、自分を訪ねてきたあの日。

 彼と初めて会合した瞬間、劉備は察した。


(この男は自分に似ている。)


 劉備はこの時、初めて自分の仲間を得た気持ちであった。


 関羽、張飛とは違う仲間。


 彼らとは質が違う、似たモノ同士の仲間。


 その本質・・・それは・・・


 “裏切り”


 である。



 劉備は利が得られるとあらば、言葉巧みに相手に近づき、上手く取り入られ、共存できる才能があった。

 もちろん、与えられた恩に対しては、全身全霊全力を持って返す。

 また、相手に直接的に害を与えはしない。何があっても絶対にしない。

 しかし、間接的には与える。気付かれぬように、蓄積する毒のように相手に与える。


 世話になった『劉焉りゅうえん』の元を離れた。

 世話になった『公孫瓚こうそんさん』の元を離れた。

 世話になった『陶謙とうけん』の国を得た。

 協力しようと誓い合った『呂布りょふ』を見捨てた。

 そして今、終生のライバルである『曹操そうそう』の元で世話になっている。


 害は与えていないが、実もまた与えていない。


『自分にとって利益がある行動だけを追求する。』


 それが劉備の本質である。

 利用するだけ利用して、別に益が出ればスルリと流れるように見棄てる。

 その行動原理は呂布の行動に似ている。


 世話になった『丁原ていげん』を裏切った。

 世話になった『董卓とうたく』を裏切った。

 世話になった『劉備りゅうび』を裏切った。


 劉備と呂布。

 彼らの違いは直接的に害を与えているか否かの違いしかない。


 広い意味での同族。


 それが彼ら二人の関係であった。

 そして、劉備は呂布と出会った時、こう決意した。


(彼を真に近しき友にしたい。)


(今はまだ義が薄く、遠い仲間(同族)であるが、義に厚い友となりたい。)


(彼を導こう。)


 劉備はその後、呂布に良く接し、彼に義の温かみを教えようとした。


 しかし、その結果は、今現在進行形の通りである。



(―――失敗した。)


 そう思った彼が起こしたのが、前話での『呂布を殺すべきだ。』という進言であった。


 劉備の腹黒さが滲み出た言葉。


『同族嫌悪』


 彼はその心理におちいってしまったのかもしれない。

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