第412話 朗報は嬉しい

 手ぶらでは軍門に降れない。


 侯成は魏続と宋憲の二名と話を進めた結果、呂布が頼みにしている赤兎馬を曹操に献上することに決めた。


「呂布は我々大将よりも赤兎馬を重んじている。その赤兎馬を手土産として曹操の軍門に降ろう。―――俺が城外に出て曹操と話をつけている間に、二人は呂布を生け捕ってくれ。」


「了解だ。―――しかし、その体で、君は大丈夫か?」


「何のこれしき、お茶の子さいさいだ。」


 話を終えた侯成は、唇を噛んで身支度を整えると、夜の更(ふ)ける頃を見計らって馬屋うまやに忍び込みに行った。


「グーグー、ムニャムニャ、スピースピー・・・・・・」


 番の士卒はうずくまって寝ていた。


(これがあの呂布軍の兵の末路か・・・。)


 見張りもロクに出来なくなってしまっている軍の醜態を横目に、侯成は悲しみの色を浮かべながら赤兎馬をいとも簡単に盗み出したのであった。



「―――丞相じょうしょう!大変にございます!!」


 曹操の寝ている幕舎ばくしゃ侍者じしゃが飛び込んできた。

 夜はまだ明けたばかりの頃である。

 寒い眠りを起こされた曹操は一声を上げた。


「何事か!!」


「はっ!敵将の侯成が降を申し出て、丞相に謁を賜りたいと陣門にやって来ております!」


「なにっ!? 侯成とな!!・・・侯成ほどの名将がついに軍門に下りに来たか。」


 報を聞いた曹操は服を整え、幕営へと呼び寄せると、彼と面会した。


「あーだ、こーだ、そーだー♪ペラペラリン♪」


「ふむふむ、なるほど、そーかー♪あいわかった♪」


 事の次第を聞いた曹操の喜び方は甚だしかった。

 そしてさらに、


「この言の証拠として、呂布の赤兎馬を持ってきました。」


「なにっ!? あの赤兎馬を!!」


 彼の言は事実である。


炎のたてがみなびかせて

真っ赤な馬体は紅蓮の様

千里を駆ける生物兵器

天下の名馬『赤兎馬』くん。


 侯成の盗んできた赤兎馬を見て、曹操は絶叫した。


「うわおあおぉぉぉぉぉッ!ベネ(良し)!ディ・モールト・ベネ(非常に良し)!!貴公の言を信じよう!!」


 手を叩いて喜び、侯成をいたわって礼を尽くした。

 そしてさらにさらに、


「我が友の魏続と宋憲の二人も、城中にあって、内応する手筈となっております。丞相の軍が一挙に攻めれば、二人は白旗を掲げ、城の門を開いて迎え入れるでしょう。」


 と、続けざまに朗報を告げた。

 この報に曹操は喜悦きえつして、


「きゃおおぉぉぉあああああおおおおおぉぉぉわあぁあぁおおぉぉぉぉぉッ!」


「全軍に伝令だ!これから一挙に下邳の城を揉み潰すとな!すぐに支度を整えい!!」


「それと城内に檄文げきぶんじゃーーーーい!!」


 報はすぐに陣内に伝わり、曹操の認めた檄文は矢文として城内に射られた。



“今から攻めるよ、よろしくね。

 呂布を征すよ、よろしくね。

 刃向う者は殺すから。

 容赦なくなく殺すから。

 降伏すれば、賞してやる。

 呂布を殺せば、賞してやる。

 重く用いて一族安泰。

 どっちを選ぶか、君次第。


 大将軍曹操・押字おうじ



 この文が書かれた矢文が、何十本となく城内に射こまれた。


「やべえよ、やべえよ。これマジでヤバい奴やん。」


「曹操に殺されるで・・・どないしよー。」


「あ゛あ゛ーーー!まだにだくないよ゛ーーーッ!」


 矢文により城内は浮き立った。


「よし!城攻め開始だ!!」


 射こまれた矢文を合図とし、曹操軍は銅鑼の音と共に城攻めを開始したのであった。

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