第408話 嫌なことから目を背けない

祈りは届かない。

願いは叶わない。

人はただ嘆くのみ。


 城内の大将の一人である侯成こうせいは憂いていた。


(ついに投降者が出たか・・・。)


 天を仰ぎ、事の重大さに目を背けたくなる。


(もうどうにもならないのか・・・ここまま終わってしまうのか・・・。)


 背けようとすればするほど、思考が現実へと向いてしまう。


(・・・いや!まだだ!まだ終わらんぞ!皆の士気を取り戻せば必ずや勝てる!!)


 侯成は自身の頬を自らの両手でパチンッ!と叩くと、気合十分、城の外へと出かけたのであった。



 ―――呂布が禁酒令を発令して幾日いくにちが過ぎたある日のこと。

 侯成の軍馬が十五頭、一夜にして、いなくなるという事件が起きた。


「なにっ!? 馬が消えただと!!」


「はい。」


「羽が生えて何処かに飛んで行ったわけではあるまい。・・・誰かが盗んだな。」


「さぁ?」


「さぁ?ではなかろう!原因を調べんか!!」


「はいはい。」


「・・・・・・」


 侯成はこのわずかな会話で察した。

 しかし、落ち込んでいる暇などない。

 彼は落胆しながらも直ぐに部下に命を下し、原因の解明を急いだ。


 調べてみると、馬飼の士卒が結託して馬を盗みだし、城外に出て、敵にそれを献じ、敵に降伏しようと企てたということがわかった。


 侯成は一隊を率いて彼らを追いかけ、


「この卑怯者!!」


 と言って、彼らを皆殺しにして、馬も全てを取り戻した。


「良かった!良かった!さすが侯成将軍!」


おごるべし!祝うべし!」


「ステキ!抱いて!!」


 他の大将たちも彼の功績を褒め称えた。

 しかし、当の本人の侯成はと言うと、


(・・・・・・・)


 彼は俯いたまま歓声には応じなかった。


『喜びの声が耳障り。』


 事の重大さを理解していない将たちに呆れ果てながら、冒頭のシーンへと移るのであった。

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