第404話 問いに正しく答えること

「酒だぁ!酒を持って来い!!」


 呂布は超荒れていた。

 最後の一計が失敗して以降、彼はガキ大将のように周囲に喚き散らしており、悶々と酒ばかりを飲んでいた。


「将軍・・・少しお酒がすぎるようでございます。」


 もちろん、彼の言動を諌める者もいる。

 しかし、当の彼は、


「黙れっ!酒を飲む以外に何が出来る!何の楽しみがある!!」


「正面から戦うことは出来ぬ!」

「娘を淮南へ送ることも出来ぬ!」

「金曜ロードショーはまともに映画を放送せぬ!」

「日曜洋画劇場に至っては死んだ!!」


「我々はただ城に引籠って息をひそめているだけだ!!これが酒を飲まずにいられると思うのか!!」


理解アンダースタンドしたなら、さっさと酒を持ってい来い!早く素早く持って来い!!!」


 策を失った狂狼は、ただ吠えることしか出来なかった。

 その様子を見ている将兵たちの心が、彼から離れていることにも気づかずに、彼は吠えることしか出来なかった。



 一方、曹操陣営はと言うと・・・


「非常にマズイ。」


 軍議場にて、曹操は憂いていた。

 曹操軍は曹操軍で打つ手が無くなっていたのだ。


(あそこまで城に引籠られたら、さすがの私も打つ手がない。)


 戦はすでに冬期に入っていた。

 兵馬の凍死数も日に日に増えてきており、糧草も尽きんとしている。

 このまま戦が長引けば、軍を退いて遠く帰ることも出来なくなってしまう。


「どうしたものか?」


 焦燥しょうそうしている曹操の問いに、将の一人が答えた。


「一旦、都に引き返してはいかがでしょうか?都で冬を過ごし、春に狼狩りを再開すればよろしいかと。」


 間違いのない無難な答えである。

 しかし、曹操は首を横に振った。


「それはダメだ。間違いではないが、零点の答えだ。」


。」


「・・・再度、諸将に問おう。どうしたものか?」


 曹操の問いに諸将一同、皆が悩んだ。

 一同全員が思っていた答えを彼が否定したからだ。


“勝つためにはどうしたらよいか?”


 曹操はこの戦いに勝利を求めた。


 退くことは敵に背中をみせるということ。これすなわち、敵に弱さを見せるということ。


 呂布を含む各地の英雄に、「曹操は下邳の城ひとつ落とせなかった!」と思われるわけにはいかない。


『弱みを見せればたちまちつけいられる時代』


 以前にも書いたこの言葉が、曹操に勝利を求めさせたのである。


 そして、しばしの沈黙の後、敵に背中を見せるということを良しとしない大将の問いに、二人の賢人が答えを述べるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る