第390話 追い詰め過ぎないこと

 徐州は取られ、蕭関しょかんは奪われ、小沛はひったくられた。

 領地を失った呂布は、四方の残兵を集めて下邳かひへと向かった。


 『下邳』


 この下邳は徐州の出城(=国境などの要害の地に築いた城)のようなモノであり、徐州の城に比べて小城だが、ここには部下の侯成こうせいがおり、要害の地でもあるため、呂布はこの地に落ちて行ったわけである。


 そこへ曹操軍+劉備軍の大軍が押し寄せてきた。


「よし!このまま下邳の城を包囲し、呂布を檻の中に閉じ込めるのだ!!」


 曹操は軍議場にて、意気込んで諸将に意中を述べたわけであるが、その言に程昱ていいくが待ったをかけた。


「殿、『窮鼠猫を噛む』のたとえもありますので、檻の虎の料理を易く見ると、噛みつかれる怖れがあります。」


「そこで、ここは遠火で魚をあぶるように、ゆるゆるとジワジワと攻め殺すのが得策と思われます。」


短兵急たんぺいきゅうに押し詰める(=突然行動する)と、破れかぶれになった狼が無謀を起こすやもしれませぬ。」


「危険は極力排除し、安全万全を徹底すべきと進言いたします。」


 曹操は程昱の言に頷くと、少し考慮した後、再度諸将を前に意中を述べた。


「確かにお前の言う通り、追い詰められた獣は、時にとんでもない行動を起こすことがある。」


「今、最も恐れるべきことは、奴が淮南の袁術にこうべを下げ、袁術に援軍を要請することだ。」


「もし袁術の援軍がここに乗り込んで来たならば、我々はたちまち窮地におちいることになるだろう。」


「その可能性を考慮し、再度策を練り直すとしよう。」


 曹操は部下の意見を尊重する人間であった。

 部下の言を聞き入れた彼は、『呂布と袁術をくっつけない』ということに重きを置き、軍議を重ねた。

 そして、


「―――劉備殿、そなたの軍で、下邳と淮南の間の通路を警備して下され。」


「犬コロ一匹通さぬ厳重さで下邳の城を孤立させるのだ。」


「下邳への城攻めは我が軍が中心となってとり行おう。」


 と、曹操は言った。

 この提案に劉備は謹んで、


尊命そんめい、承知しました」


 と誓ったのであった。

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