第382話 病気は気付きにくい

「奴等、裏切りの準備してましたよ。」


「マジでか!」


 陳登からの報を聞いて、呂布は激おこプンプン、ペンペペペーン!であった。


「陳宮の奴め・・・近頃、俺がお主ら父子の言ばかりを聞いておったので、奴が俺に不信を抱いていたのは感づいておったが、まさか反旗という形でそれを表すとは・・・許せぬ!」


 単純で単細胞な呂布。

 彼は真に忠義を尽くしている陳宮を信用せず、不義を尽くしている陳登を信用している。


『良薬は口に苦く、偽薬は口に甘し。』


 苦い薬を捨て、偽りの薬を身に入れる彼の未来は大病に侵されつつあった。


 しかし、当の本人にその自覚は無い。


 自身の病気を病気だと認識するのは、発症した時にしか分かり得ないのだ。


 呂布は偽薬を勧める陳登を褒め称え、一策を彼にさずけることにした。


「―――裏切り者共を酒で酔い潰させろ。そしてしかる後、楼上から火の手を上げ、いぬいの門を開けておくのだ。」


「火の手とともに俺が城へ突っ込み、奴らをバッキンゴッキャンにしてやる!!」


 呂布にとってこの策は懸命な策のつもりであった。

 しかし、その策を聞いた陳登は、


(この将軍アホ過ぎるwwwwwwワロスwwwwww)


 と、内心で超小馬鹿にしつつ、笑い堪えて再び蕭関へ向かったのであった。



 ―――ハイ!ここで超スピードッ!!


 宵闇よいやみのとっぶり迫った頃、蕭関に着いた陳登は陳宮と面会していた。


「ヤバいことが起りました。」


「なんぞや?」


「曹操の大軍が進路を変え、泰山の険路を越えて一斉に徐州に攻め入りました。」


「えっ!? マジでか!」


「マジモンのマジモンです。ですので、今やこの蕭関を守る必要は皆無となりました。速やかに警戒を解き、手勢を引いて、徐州を助けに向かえとの命令です。」


 報を聞いて陳宮は顔色を失った。


「・・・その報は真」


「呂布将軍からの報は伝えました!危急の事態なのでこれで失礼します!サヨナラ!!」


 陳宮が応とも否とも答えぬ間に、陳登は駒に乗って蕭関の砦からサッと抜け出した。

 そんな彼の慌て振りを見た陳宮は、


「彼の慌てよう・・・この報は真に違いない!すぐに徐州へと向かうぞ!!」


 と、砦内の全兵に火急の伝令を飛ばし、半刻も経たぬうちに、全兵を引いて蕭関の砦から徐州の城へ向かって行った。


――――砦はがら空きになった。


 すると、その誰もいない無人の砦の楼上に、一つの人影が立ち上がった。

 砦から去って行ったはずの陳登であった。


(・・・あれか。)


 彼はやじりに密書を結ぶと、闇夜にゆれる一灯いっとうに向かい矢を放った。

 すると、


ヤブミ

ミタ

リョウカイ


 の松明を使った火合図が送られた。


(勝った・・・これで蕭関は曹操様と劉備様のモノだ。)


 彼が闇夜で手紙を送っていたのは曹操軍であった。


 暫くすると、陳登の密書を読んだ曹操軍が乾の門よりひたひたと砦内に入り込み、外敵に備えて、砦の防備を固め始めたのであった。

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