第332話 遠まわしに伝えよう
「えっ!? うそっ!? まじでぇ~~!!」
陳珪が来たと聞いて誰よりも驚いたのは、大将の韓暹であった。
「・・・何はともあれ、会ってみるとしよう。」
と、彼は陳珪を堂へ迎え、
韓暹と陳珪は会話を始めたが、陳珪はその胸の内を話そうとしない。
ただただ世間話が続くのみ。
焦れるような会話が続いていると、やがて日が暮れて来た。
「――――今宵は月が綺麗そうじゃ。こういう時は月の光に導かれ、星座のまたたきを数えながら先のゆくえを話すのが風流でござろうな。」
韓暹はこの言葉の意味を理解し、陳珪の望み通りに、二人だけで庭へと出向いた。
松下に
「・・・ご老公は呂布の重臣。一体何の用でこの地まで出向かれたのか?」
韓暹が口火を切ると、老人は態度を正し、
「わしは呂布の家来などではない。朝廷の臣である。徐州は朝廷の領土で呂布の領土では断じてない。」
と、先ほどとは打って変わって、雄弁となり始めた。
「あの糞バカゴミナメクジの話など今はどうでもよい。今、大事なのは・・・そう・・・貴公の行く末のほうである」
「拙者の行く末ですと?」
「左様。・・・聞くに、そなたの主である袁術は、玉璽を用いて皇帝を名乗ったとか?」
「!? だ、誰からそのような話を聞かれた!!」
「ははははは。誰から?どこから? そんな質問はNGですぞ。このような話、そこらにいる、はなたれ小僧でも知っておる噂話にござる。・・・しかしですなぁ、韓将軍。世間はそれを許しますかな?」
「・・・・・・」
陳珪の確信を突いた思わぬ言葉に、韓暹は驚きと共に黙ってしまった。
そして、それが彼にとっての不覚でもあった。
驚くということは隙が出来たということである。
陳珪はその隙を逃さず、畳み掛けるように言葉を続けた。
「この国は衰えているとはいえ、まだ帝に忠義を尽くす将たちは多い。そんな将たちを前に、『今から皇帝を名乗ります!テヘペロ!!』、なんて宣言したらどうなるでしょうな?」
「・・・・・・」
「自称皇帝など世間は決して認めぬ。そのうち、各地の英雄たちが手を結び、袁術めがけて襲いかかりますわい。そうなれば、そなたたちは逆賊。その運命は一年も持ちますまい。」
「・・・・・何故そのような話を拙者に?」
「ははははは。先程のわしの言葉をもうお忘れか?『今は貴公の行く末の方が大事。』と申したであろう?」
「うっ!? む、むぅ・・・。」
陳珪の言に、韓暹の心が揺れる。
遠まわしであるが、韓暹には彼の言いたいことが理解できた。
そして、その言葉をハッキリと聞くために韓暹は陳珪に問いかける。
「ご老人・・・仰って下され。拙者に何をしろというのです?」
そして、その言葉を待ってましたと言わんばかりに陳珪はニタリと笑みを浮かべて答えを返した。
「袁術を裏切りなされ。」
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