第331話 必要な武器を持つこと

あ~る晴れた~昼下さがり~♪

敵陣~へ続~く道~♪

老人がテ~クテ~ク~♪

牝羊と歩いてゆく~♪

かわ~い~い牝羊♪歩いてゆくよ~♪

嫌々そ~うな瞳で、見・て・い・る・よ~♪

テケ・テケ・テ~ケ~♪テ~ケ~♪

牝羊を連~れ~て~♪

テケ・テケ・テ~ケ~♪テ~ケ~♪

老人が歩く~♪



 韓暹かんせんが担当している下邳という地は東方の山地にあり、彼は徐州への要道を抑え、司令部を嘯松寺しょうしょうじにおき、総攻撃の日を待っていた。


 野にも村にも兵が満ちている。


 そこへ一人の老人が牝羊を連れてやって来た。

 白い髭を風になびかせ、無人の道を進むが如く、平然と歩んで行く。


「・・・何だあのジジイ?」


 陳珪が手勢を連れていれば、言わずもがな。

 しかし、今の彼が連れているのは牝羊のみ。


『武器を持たないという武器が最も効果的である。』


 袁術の兵たちは平和的な彼を指さしはすれど、それを咎めるものはいなかった。



「――――もう近いな。」


 陳珪は山中に入ると、時折、岩に腰かけた。

 そして、牝羊の乳をいやらしい手つきで揉みながら乳搾りを行った。


 時は真夏。暑い日差しが陽々と降り注ぐ。


 この付近には清水が無い。

 陳珪は羊の乳を器に搾って、飢えと渇きをしのぐのであった。



 蝉の声が響く松の生い茂る山中を進んでいると、嘯松寺へと到着した。


「ジジイ!何奴!」


 門の前ではさすがに止められた。

 門番の声に陳珪は、いつものポーカーフェイスで、羊を指さしながら答えた。


「韓将軍にコレを献上しに来たのです。」


「コレは・・・羊ではないか!ふざけるな!殺すぞ!!」


「ハハハ、殺すとはぶっそうな。・・・徐州から陳珪が来たと将軍にお伝え下さらぬか?」


「なにっ!? 徐州から来ただと!しかも、陳の者とな!!・・・すぐに将軍に伝えるのでしばしお待ち下され!!」


 陳珪と聞いて、門番は大変に驚いた。

 呂布の城下に住み、曹操の推薦で朝廷から老後の手当金として禄二千石を受けた名のある老人である。

 門番は全速力で寺を駆け、韓暹に事の次第を報告したのであった。

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