第308話 敵に回れば恐ろしい
呂布との戦後、劉備は目を瞑り、諸将を前に、一人、善後策を講じていた。
「・・・・・・」
無言の威圧である。
誰も彼に声をかけることが出来ない。
そして、これから彼が発する提案に反論することは出来ないだろう。
重く苦しい、ただ待つだけの時間。
特に事の発端を担った張飛は、氷の彫刻の如く身を凍らせ、微動だにせずに劉備の言葉を待っていた。
やがて、ため息とともに言葉が吐かれた。
「・・・張飛、盗んだ馬を呂布に送り返せ。」
「・・・はい。」
張飛は劉備の命令通り、その晩のうちに城外の境内に繋いであった三百匹の軍馬を呂布の軍へと送り返した。
劉備は何故このような無駄ともいえる命令を下したのか?
その答えは単純である。
『呂布と決別したいから』
それだけである。
張飛の言い分も理解している。
だから呂布との戦を容認した。
しかし、それは彼の本心ではない。
『呂布とは戦いたくない。』
それが彼の本心であった。
しかし、それはもう叶わぬ願いだと、彼は『手切れ金』の代わりとして、盗んだ軍馬を返すことにしたのである。
軍馬を受け取った呂布は機嫌を直して、軍を退こうとしたが、それを陳宮が制する。
「将軍、甘すぎますぞ。劉備を今ここで討っておかなければ、必ず後の禍となります。彼の人望は日を増すごとに強くなり、その輝きで身を焼かれますぞ。」
彼の忠告を聞いた呂布は、劉備の善行や人徳が恐ろしくも憎くなった。
『敵に回れば恐ろしい』とは、まさにこの事であろう。
「そうだ・・・人情は俺の弱点だ。」
忠告を受け入れた呂布は、翌日より小沛の県城を攻め立てた。
呂布の猛攻により小沛の県城はたちまちピンチに陥った。
しかし、これは劉備の想定内であった。
「これより、竜の雌伏作戦を行う。」
劉備は先日より考えていた策を実行に移すべく、その夜、ひそかに行動をはじめた。
夜の更けたころ、劉備は腹心の者とわずかの手勢だけを連れて、搦(から)め手(=城の裏門)から城外へと脱け出した。
関羽と張飛の二人は殿を務め、二千余騎を使い、
「この地を去る思い出に、呂布軍を一発ぶん殴る!!」
と、敵兵を踏み破り、
「ああ~ん!何で私ばかりこんな目に遭うんだ~~~!!」
宋憲の泣いている姿を見た二人は、
「これで幾らかは胸がすいた。」
と、先へ落ちて行った劉備の後を追いかけたのであった。
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