第307話 憎い相手は許せない

 張飛と呂布。

 二人は烈火の如く刃を交えていた。


「おのれッ!!」


「くたばれッ!!」


 戟を持ち直しながら、馬を敵に向け直しながら、互いの眼を睨みつけながら、二人は刃を交わし合った。


 呂布は天下無双の豪傑。

 また、張飛も呂布に見劣りしない武に優れた英傑。


 しかし、同じ鉄腕を持つ二人であるが、彼らの性格はかみ合わない。


 張飛は呂布が嫌いである。

 呂布も張飛が嫌いである。


 その嫌い方は尋常ではなく、二人は徹底的に、前世から、前前世から、前前前世からの因縁の相手のように互いを憎みあっていた。


 相手を見るだけで反吐がでる。


 それほど憎みあっている二人が戦場という時と所を得て刃を交えているのだから、その戦闘の激烈さは言語に絶していた。


 刃を交えること二百余合。


 流れる汗は人だけに止まらず、人馬共に滝のように流れている。

 馬が踏みしめた地は掘り返り、陽はいつの間にか暮れようとしていた。



「――――張飛!張飛!何故退こうとせん!!兄者の命令が聞けんのかッ!!!」


 激闘を繰り広げる張飛に関羽が後ろの方より声をかける。


「兄貴の命令!・・・あっ!?」


 次兄の声を聞きながら戦いを止めることなく、周囲の様子を窺うと、戦場に残っているのが自分だけだというのに気付いた。

 呂布の軍勢の大半も退いており、戦場の中央でまとも戦っているのは張飛と呂布だけということであった。


「ともかく退けい!早く軍と合流するのだ!!」


「おうっ!!」


 関羽は張飛のために敵の囲みの一角を斬り崩した。

 そして、「張飛!」との関羽の掛け声に合わせるように、張飛は馬を走らせた。


「呂布!明日また来い!もっとも、その前に自らの恥を悟り、自決するのが賢明であろうがな!!」


「ぬかせ!この虎髭男!貴様の首を討ち落とし、その髭を剃って、ベビータイガーのようにツルテンテンにしてやる!首と髭を洗っておけ!!」


 双方互いに罵りながら、夕闇の中へと消えていく。


「・・・張飛。兄者がご立腹だぞ。」


 関羽の囁きに張飛は、


「・・・関兄貴、フォロー頼むよ。」


 と、背を丸めて次兄の関羽に懇願したのであった。

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