第309話 英雄の会合

 時は建安けんあん五年の冬。

 国を無くした劉備は許昌きょしょうの都へとたどり着いた。


 『許昌』


 この都にいる英雄を読者の皆様は覚えているだろうか?


 転戦に継ぐ転戦により、絶対的な権力を得た一人の英雄がこの地にいる。


 本小説の主人公の一人である英雄。


 乱世の奸雄と称され、後世に多大な影響を与えた一大の傑物。


 『曹孟徳』である。


 劉備は、この曹孟徳がいる許昌を雌伏の場として選び、彼に救いの手を求めたのであった。



「――――なにっ!? 劉備がこの許昌に落ち延びて来ただと?」


「左様にございます。わずかの手勢を引き連れ、満身創痍でこの地に来ております。」


「ふむぅ・・・。よし、彼を丁重にもてなせ。」


「はっ!!」


 曹操はそれに対して無情ではなかった。

 彼は酒宴を設け、賓客の礼をとり、上座にて劉備と語り合った。

 もちろん、関羽と張飛の義弟二人も宴席に呼び、その苦労をねぎらった。


「劉備殿。こうやって面と向かって話をするのは黄巾の乱での戦場の時以来であろうか?」


「左様でございますな。」


「あの時の劉備殿率いる義勇軍の活躍は、我々正規軍の間でも大変な評判となったモノだ。」


「ありがとうございます。」


 曹操と劉備。


 三国志の代名詞ともいえる二人の英雄が杯を交わす。


 その語らいは互いに心地よく、二人は飽きることなく語り合った。


 そして・・・


「ところで劉備殿。これからどうなさるおつもりかな?」


「さぁ?自由気ままに風の吹くままに旅を続けるか・・・それともどこかの地に落ち着くか・・・それは宿に帰ってゆっくり考えるとします。」


「左様か・・・ならばゆっくり考えるが良い。方針が決まるまで、私が貴公の援助をしよう。」


「よろしいのですか?」


「よい。英雄をもてなすのは、英雄冥利に尽きるというモノだ。」


「曹操殿・・・ありがとうございます。」


 劉備は頭を深く下げ、曹操に礼を述べた後、日の暮れぬ内に相府しょうふを辞し、宿へと引き揚げたのであった。

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