第296話 言葉に気を付けよう

 関羽は張飛を諭した。


「なぜその力を守りに使わない!人を殺すためだけに使う力ではなかろうに!!それほど呂布を恨み疑うのなら、命がけで兄者を守護してみせろ!!守る力で呂布の陣へと臨んでみせんか!!!」


 彼の説得に張飛は唾を吐くように、


「わかった!守ってみせるさ!兄貴と共に奴の陣へ行ってやる!!」


 と言って、劉備らと共に馬を並べて呂布の陣へと向かった。



 ――――呂布の陣へ着いても張飛の顔はこわばったままである。

 いや、むしろさらなるこわばりを見せ、ニコリともしない。

 殺気だった眼だけが左右にギョロリと動く。


(安易に兄者に近づく奴は斬り殺す!!)


 彼の体から発せられるオーラ力は兵たちの身を震わすのには充分であった。


 張飛ばかりに目が行きがちだが、関羽もまた殺気立っていた。

 劉備の後ろに屹然と立ち、制空圏(=間合い)に入る者を全て排除する気概を見せていた。


 やがて、呂布が席についた。


「よう来られた。( ^ω^ )ニコニコ」


 挨拶は良かったが、その次の言葉がまずかった。


「此度の貴公の危機を救うのに随分と苦労しました。この恩を忘れないようにしてもらいたい。・・・あ~~~疲れた。(´ヘ`;;;)ハァ~。」


 彼の言葉に、関羽と張飛の顔が怒りに燃える。

 剣を抜いて八つ裂きにせんとする二人に対し、劉備は頭を下げ、


「苦労をお掛けして申し訳ありません。この大恩は胸の奥の箪笥たんすの奥の想いの届かぬところに大切にしまっておき、忘れないようにしておきます。」


 と下手の姿勢を見せた。



 少し時が経つと、呂布の家臣がやって来た。


「淮南の紀霊将軍がお見えになりました。」


「おおっ、来たか。此方へ通してくれ。」


「はっ!」


 軽いサラッとした会話であったが、その会話を聞いていた劉備と他二人は顔を強張こわばらせた。


(紀霊将軍だと?・・・まさか袁術軍の大将である紀霊じゃないだろうな?)


 眉をひそめる三人に対し、呂布はけろりとしている。


 敵将である紀霊がこの場に来るとあらば、一大事である。

 交戦中の両将軍がかいするなど、あってはならない事態。

 劉備は万が一を避けるため、席を立とうとした。


「・・・呂布将軍。お客様がお見えになったようですので、席を外させて」


「いや、そのままで結構。彼と同席させるために貴公を呼んだのだから、席を外されては困る。Sit down please.」


 呂布の言葉に場が緊張感に包まれる。


 下手に動けば血の雨が降る。


 劉備は彼の言葉に従い、席に座りなおした。



 ――――しばらくすると、彼方から大きな笑い声が聞こえて来た。

 どうやら、紀霊が呂布の臣と何か話しながら此処へやってくるようである。


「こちらです。」


 案内の兵が営門の帳を上げ、庭の閣を指すと、紀霊はそれに従って中に入った。瞬間、


「・・・あっ?」


 と、顔色を変えて、すぐに足を止めてしまった。


劉備

関羽

張飛


 敵方の三人が、揃って席に座り、中に入って来た自分を見つめていたからであった。

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