第295話 人に恨みを持たれない

 袁術軍は呂布の行動に不信を抱いた。

 というのも、呂布が劉備軍と袁術軍の間に陣を布いたからである。


(呂布の奴め・・・袁術様からの報奨を受け取っておいてどういうつもりだ?)


 大将の紀霊は抗議文を呂布の陣営に送りつけ、即刻徐州へ退くよう願い出た。

 呂布は双方の板挟みとなったわけだが、決して困ったような顔はしなかった。


 人に恨まれるのは愚か者のすること。


 劉備と袁術。

 どちらの味方に付いても、片方から反感を買うのは間違いない。

 そこで呂布は、双方から恨まれぬように一計を案じた。

 そんな彼の横で陳宮は、


(このアホにそんな器用なマネが出来るのかな?)


 と、疑いの目で事の成り行きを見ていた。



 呂布は二通の招待状を書いた。

 一通は劉備軍へ、もう一通は袁術軍へと送った。



話があるから陣へ来い!

優しくするから陣へ来い!

かわいがってやるから陣へ来い!

ペロペロしてやるから陣へ来い!

あんなことやこんなことをするから陣へ来い!

ちょっとだけ!先っちょだけでいいから来い!

・・・来い来い!!



 招待状を受け取った劉備は、


「・・・行かねばなるまい。」


 と、ちかけた。

 そんな劉備を関羽が引き止める。


「怪し過ぎます。ヘローワークの求人募集より怪しいです。行ってはなりませぬ。」


 関羽の言に続き、張飛もまた、彼を引き止めた。


「兄貴は呂布を信じているかもしれませんが、我々は奴を信じられません!クッパ城よりも狡猾な罠が呂布の陣営で待ち構えているに違いありません!!」


 しかし劉備は、


「呂布は私を殺そうと思えばいつでも殺せた。小細工をする必要なくだ。・・・やはりこの招待状には何かある。・・・行かねば。」


 と言って、歩を運びかけた。

 すると張飛が、「しばしお待ちを!出かけてきます!!」と言って、城外へと出ようとした。


「待てッ!張飛!どこへ行く気か!!」


「しれたこと!呂布が城を出て陣地にいるのは絶好のチャンス!不意を突いて奴の首をあげ、ついでに紀霊軍も蹴散らしてきます!!」


「何を馬鹿な事を・・・関羽ッ!孫乾そんけんッ!張飛を止めろ!!」


 劉備は呂布の迎えより、張飛の暴勇のほうを恐れて左右のしんに言った。


「止めるな!俺は行くんだ!奴の首を刎ねに行くんだ!じゃないと俺は・・・俺は・・・ワーーーーーーーーーッ!止めるなーーーーーーーーッ!」


 二人に止められて癇癪を起こす張飛。

 彼の呂布に対する恨みは尋常ではなく、彼の口より放たれる咆哮は小沛の城を激しく震わせたのであった。

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