第294話 贈り物には裏がある

 呂布はそう甘くない。

 仮にも乱世を生きる男が、そう簡単に策に乗るはずが無かった。


(なぜ今頃になって、あの袁術が報奨を贈って来たのか?)


 彼は内心では喜びながら、疑心も起こしていた。


「陳宮。これは一体どういうことであろうか?」


 腹心の陳宮に問うと、


「見え見えの考え、スケルトンですよ。」


 と、笑って答えた。


「将軍を牽制けんせいしておいて、小沛の劉備を討とうという魂胆なのでしょう。」


「なるほど。・・・確かに、俺もそんな気がする。」


「しかし、将軍。ここは深く考えねばなりませんぞ。」


「というと?」


「劉備は人を裏切れる男ではございませんので、劉備が小沛にいることは、将軍にとって害はありません。しかし、袁術となると話は別です。小沛が袁術の勢力下に入ると、いつこの徐州を襲われるかわかりません。」


「確かにそうだ。・・・では、この贈り物はどうしたものかな?」


「そのまま貰っておけばよろしいかと。これらは以前交わした約束の品物。今回の彼らの小沛攻めとは何の関係もございませんので。」


「それはいい。ありがたく頂いておくとしよう。」


 二人は笑って、袁術からの報奨を素直に受け取ることにしたのであった。



 A few days later.(=数日後)

 小沛の劉備の元に早馬が届いた。


「た、大変です!袁術軍がこの小沛に押し寄せてきております!!」


「なんと!? して、その数は!」


「十万です!!」


「十万だと!あららららら!超大軍!えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!!」


 袁術は呂布が贈り物を受け取ると、すぐに行動を開始した。

 幕将の紀霊きれいが軍の指揮に当たり、十万の大軍が小沛の城へと押し寄せてきたのである。


 彼らの歩みに迷いなし。


 どうやら『贈り物を受け取った=小沛攻めを了承した。』と、袁術は考えたようである。


 この事態に劉備はすぐに徐州に早馬を出した。

 小勢力である劉備軍だけでは勝ち目がないと分かっていたからである。


『Help me!!』


 手紙を受け取った呂布は、


(予想通り。)


 と、すぐに加勢を小沛へとまわし、自身も一軍を率いて出陣したのであった。

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