第297話 悪い冗談は止めよう

((((う、うわぁ~~~~超気まずい。))))


 呂布を除く全員が抱いたシンプルな感情。

 敵対している二大将が会合するなど、殺し合いを催促しているようなモノ。

 紀霊の顔は青ざめ、


「もぅやだぁ・・・もうおうち帰るぅ・・・。」


 と、言葉少なく、身をひるがえして外に出ようとした。

 すると、そこへすかさず呂布が、


「まぁまぁ、来たばかりではないか。話も聞かずに帰るのは失礼ではないかね?ささ、Sit down please.」


 と、笑顔で紀霊に声をかけた。


「・・・状況を見るに、4対1。・・・私を殺そうというのではないのかね?」


「貴公を殺す?いやいや、貴公を殺す理由はないぞ。俺は二人に話し合いをしてもらいたいのだ。」


「話し合いだと?」


「左様。話し合いだ。・・・言い換えれば『和睦』である。」


「和睦・・・だと・・・。どういう意味だ?」


「和睦とは合戦を止めて仲良くすることだ。そんなことも知らんのか?」


「いや、だからその理由を聞いておるのだ!」


 イライラが募った紀霊は怒鳴り声を上げて呂布を睨みつけた。が、彼は冷静で、増々笑って、


「俺は平和主義者だ。俺は元来、平和を愛する紳士だからね。貴公らの醜い戦を見るのは忍びなく、今日は和睦の仲裁役として双方を顔合わせさせたわけだ。・・・俺では力不足かね?」


 彼の言葉は予想外も予想外。

 こともあろうに、あの呂布が自分の口から『俺は平和主義だ。』などと言うから、珍事も珍事である。


((((いや、お前それ鏡を見ながら言ってみろよ。))))


 と、その場にいた全員が思ったが、彼を刺激しない様にそれは口には出さなかった。


(誰がお前の事なぞ信頼するか!!)


 呂布の言葉に紀霊はなおさら疑った。


「・・・呂布将軍。冗談はそこまでにして頂きたい。私は袁術様より十万の兵を預かり、劉備の首を討たんと、この小沛の地まで来ているのですぞ。」


「分かっている。」


「ならば冗談は止めて頂きたい。和睦のための宴席など座りたくもない。私と・・・敵であるが劉備殿たちをなめるのは止めて頂こうか。」


 紀霊が杯などの馳走が置かれている机を指差し、正面を切って呂布に文句を言うと、場の空気が変わった。


 重く、どす黒い、死の空気。


 その空気を発しているのは、もちろん呂布であった。

 表情こそは先ほど同様、笑顔のままであったが、その笑顔が完全な作り笑いに変わったのは誰の目から見ても明らかであっただろう。


「俺が冗談を言っていると・・・君はそう言いたいのかね?」


 彼の一言で、関羽と張飛が腰に差してあった剣に手を伸べ、紀霊は地を蹴ってサッと後ろに下がった。

 劉備はと言うと・・・彼は腕を組み、黙々と呂布の話を聞いていた。


(劉備・・・やはり器が違うな。)


 呂布は横目で彼を見て、感心すると同時にその人間としての大きさを恐れた。


「・・・ともかく、俺は本気で和睦を提案している。マジもマジ。大マジである。」


「両軍ともに譲れぬ矜持きょうじ(=プライド)や理由があるだろうが、それは一先ず置いといて、和睦をするのだ。」


「これは俺の願いではない、天の声だと思うのだ。」


 そう言って呂布は家臣の一人に自分の大戟を持ってこさせ、それを持つと、すたすたと歩き始めたのであった。

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