第291話 日時計

 翌朝。

 捕らえた太史慈の姿が見えないので、諸将たちは孫策に彼の事を尋ねてみると、


「太史慈? ああ、兵を集めてくると進言したので、三日間の暇をやった。」


 と、あっけらかんと孫策は答えた。

 これには諸将たちは開いた口が塞がらず、


「どう考えても逃げるための口実ですよ。もう彼はここには帰って来ますまい。」


 と、唖然としながら正論を述べた。が、孫策は笑って、


「大丈夫!大丈夫!帰って来る!帰って来る!彼は俺に『I'll be back!!』と、約束したから絶対に大丈夫!」


 と、疑う心を知らなかった。


「しかし、世の中に『絶対』はありますまい。」


「そんなに彼の事が信じられぬか?彼は忠義の士であるぞ。そういう男だと見込んだから生命いのちを助け、暇をやったのだ。・・・もしお前たちの言う通り、彼がここに帰って来なくても、別に惜しくはない。その程度の男であったかと思うだけだ。」


「さいですか・・・。」


 孫策の豪胆さと懐の広さに感心しつつも呆れながら、諸将たちは、これ以上この件について口を出すことは止めたのであった。



 ――――それから三日が経過したようでやんす。


「日時計を作れ。」


「「はっ!!」」


 孫策は陣外に日時計を作らせ、三人の兵に日影を見守らせていた。


「辰の刻です。」


 番兵は一刻ごとに、孫策へ告げに来た。しばらくすると、また、


「巳の刻となりました。」


 と、報せてくる。


(・・・おいおい、もう少しで約束の時刻だぞ。やっぱり殿は騙されたんじゃね?ばっかで~~~wwww)


(おい、お前!笑い過ぎだぞ!事実だとしても笑い過ぎだぞ・・・プーッ!クスクスクス!!)


(だ・・・駄目だ・・・まだ笑うな・・・こらえるんだ・・・し、しかし・・・アハハハハハ!!)


 午の刻が近づくにつれて、三人の番兵たちはヒソヒソと笑いながら、孫策の失態をからかっていた。

 すると・・・


「・・・んっ!? 見ろ!あそこから何かが近づいて来るぞ!!」


 三人の番兵たちは目を細め、彼方から近づいて来るモノに注目した。

 そして、その正体を知った彼らは仰天して、孫策のいる帷幕へと飛び込んだ。


「そ、孫策様!た、太史慈殿が一軍を連れて此方に向かってきております!!」


 報を聞いた孫策は日時計のある陣外へと急いで向かった。


 日時計を見るに、時刻はちょうど『馬の刻』。


 南の方より近づいて来る一軍を指さし、孫策は諸将たちに、


「ドヤドヤドヤドヤドヤ~~~ン!!俺の見る目に間違いはなかったろう!!ざまぁ味噌漬け!!」


 と、腹立つくらいのドヤ顔を見せつけたのであった。


 若いながらも太史慈という人間を見抜いた孫策。

 若いながらも有言実行を為し遂げた太史慈。


 両若人は、天高くより大地を見下ろす日輪の如く、光輝いていたのであった。

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