第285話 浅はかな考えはしない
その夜。
孫策軍は五里ほど軍を引いてしまった。
陣中の空気は重く、
黒い霧が立ち込める陣内には、随所に
「――――なんとっ!? 孫策は死んだか!!」
「はっ。戦場で受けた矢傷が重くなり、孫策はあっけなく死んだそうです。そして、どこかで仮の葬儀が行われるそうでございます。」
城中より孫策軍に放った間者の報せを聞いて、張英は膝を打って喜んだ。
「やはりそうか!俺の矢に当たって助かった者はいない!必殺必中絶対無敵!生きる可能性をゼロにする無双の矢なのだからな!ぬははははは!!」
と、彼は鼻高々に衆に誇った。が、すぐに心を静め、物事を冷静に考えなおした。
彼は念を入れ、再度、物見を放って見ると、その朝、某大統領の車のドアよりも頑丈そうな柩を大勢の兵士たちが陣門へと担ぎこんでいくのが見えた。
物見が急いで報告すると、張英は笑って、
「皆の者!将を失った軍など恐れる必要はない!葬儀の日を狙い、奴らを一気に滅ぼすのだ!!」
と、将兵たちを奮い立たせたのであった。
――――その日は星の静かな夜であった。
美しい夜空の下で、一軍の兵馬が、ひっそりと野を縫ってゆく。
ピロロロローーン!ピロロロローーン!ピロロロットロ、ピロロロローーン!!
と、兵たちは
ポコポコポコポコポコ!パコパコパコパコパコ!ペコペコペコペコペコ!!
と、嘆きの鼓動を表現した
ジャジャジャジャーーン!ジャジャジャジャーーン!!
と、悲運を表現した
ひとかたまりの松明の光の中に、新しい柩が守られていた。
その柩を取り囲む諸将たちの顔は暗い。
「・・・・・・・・・・・・ああ。」
と、時折、空を仰ぎ、悲しみの声を出していた。
その時、どこからか、鬨の声が上がった。
張英率いる一隊が葬儀の時を狙い、不意打ちを仕掛けに来たのだ。
「もらった!孫策軍覚悟!死体蹴り!死体蹴り!死体蹴り!!」
「不意打ち万歳!ニョホホホホ!これで終わりだ!テハハハハ!!」
「槍で突かれるのは、頭と尻、どちらが良いかな?ファイナルアンサーーーーッ!!」
草葉の陰より勢いよく飛び出して来た兵たち、しかしその時、またしても別の場所から鬨の声が上がった。
「うっ!?・・・うっ!?・・・うううっ!?」
思わず声を上げる張英。
彼が周囲を見渡すと、それまで草や木や石や岩や猪や鹿や猿や鳥や豹や虎や熊や蛇やカバやサイやフラミンゴやアフリカゾウやニューギニアヒメテングフルーツコウモリやプエルトリコヒメエメラルドハチドリだと思っていたモノ全てが、鬨の声を上げて彼らに向かい襲いかかってきた。
さらに、葬列は形を変え、張英隊を包囲する陣形へと変容した。
「しまった!謀られたか!!」
張英は驚き、すぐに撤退命令を下した。
連れて来た兵の数はそれほど多くはない。
まともに戦っては勝ち目がないと判断した彼の迅速さは評価したいが、孫策軍の行動はもっと迅速だった。
孫策軍は張英隊を包囲して、あっという間に彼らを叩きのめした。
張英は必死に逃げた。
すると途中の林の中から、彼を呼ぶ声がした。
「どこへ行くのだ、張英!もうすでに秣陵城は、我が部隊が制圧した!もうお前に帰る場所など、どこにもないぞ!」
声と同時に、若武者と数騎が彼の行く手を塞いだ。
張英が見るに、その若武者は、先日、彼が櫓の上より射止めたと思っていた孫策であった。
「貴様は孫策!生きていたのか!!」
「当たり前だ!この俺があの程度で死ぬはずが無かろう!この葬儀は俺の策略よ!!・・・くたばれ!!」
慌てて逃げようとする張英に向かい、孫策は馬を近づけさせた。
「この浅はか者がッ!!」
孫策が大声を出して剣を振うと、張英は首と胴体がおさらばとなった。
張英は死んだ。
敵将を討ち取った孫策は、制圧した秣陵城へと悠々と入城し、先にいた孫策軍の一部隊と共に万歳三唱をしたのであった。
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