第286話 今と未来を生きること

 劉繇は荊州の劉表の元に逃げのび、抵抗を続けた張英は死んだ。

 江東一帯の地は孫策のモノとなり、人々は彼の勇名を称えて『小覇王』と唱え、敬い畏れた。

 しかし、そんな彼に頑なに従わない一人の豪傑がいた。


 太史慈である。


 彼は逃げた劉繇を見限ることなく、離反した兵を集め、涇県けいけんの城に立てこもり、孫策軍に抵抗を続けていたのであった。



「――――城内にいる兵の数は如何いかほどか?」


「二千ほどと聞いております。」


「二千か・・・決して多い数ではないな。しかし、城の北方一帯は沼地、後ろは山を背負っている。加えて最後まで抵抗を続けているとあらば、城内にいる兵たちは、先頃の張英たち以上の決死の覚悟であるのは間違いない。・・・周瑜!!」


「うむっ!!」


「君に問うが、君ならこの城をどう攻める?」


「至難であるな。多大な犠牲を払う覚悟でなければ道は開けまい。」


「君も至難と思うか。」


「当然であろう。死を覚悟した人間ほど怖い者はおらぬ。」


 涇県の古城へと迫った孫策は、決して味方の優勢をまんじなかった。


 『死を覚悟した人間は強い』


 『今』を見つめて生きている人間と『未来』を見つめて生きている人間とでは強さが違う。

 正確に言うと質が違う。

 どちらが正しい生き方であるかは作者は分からないが、一つ言えることは、今は今を生きる人間の方が強いということである。


 周瑜の言を聞いた孫策は、みだりに城に近づかず、遠巻きに城内の様子を窺いながら策を練ることにした。


「・・・しかし、周瑜よ。至難であるとはいえ、このまま無駄に月日を重ねるわけにもいくまい。何か策はないのか?」


「あるにはある。『十一王方牌大火計じゅういちおうほうぱいだいかけい』という秘策がある。」


「ほほう・・・詳細求む。」


「うむ。・・・まず、命知らずの将一人と兵十人を募り、決死隊を編成するのだ。その決死隊を城内へ忍び入らせ、あちこちより火を放ち、敵を混乱させたのを見計らって城へ攻め入るという策である。」


「ふむ・・・なるほど。良い策だ。その策でいこう。」


「では、手筈を整えると」


「あっ!? ちょっと待て!その策、タンマ!!」


「??? どうした?」


「いや、策自体は良いのだが、俺はあの城に籠っている太史慈を殺したくないのだ。彼を生捕りにして、部下にしたいと思っている。それも加味して策を練り直して欲しい。」


「また難しいことを・・・。」


 孫策の願いに思わず苦笑いする周瑜。

 しかし、孫策との付き合いが長い彼は、そんな我儘は慣れたモノと、口元に手を当て、策を練り直した。


 ポクポクポクポク・・・チーーン!!


「ひらめいた!一級品だ!!」


「おおっ!? でかした、周瑜!好き好き好き好き好きっ好き!周瑜さんだ!・・・して、その内容は!!」


「慌てるな。策は単純極まりない。北方だけ手薄にしておけば良いのだ。そうしておけば、火の手が上がった時、太史慈は北門より逃げ出すに違いない。そこを捕らえるのだ。」


「なるほど!超簡単!さすが周瑜だ!一瞬、『お前考えるの面倒になっただろ?』って思ってしまったぞ!!」


「ふはははは!私にかかればこんな策を考えるなど朝飯前よ!!ふはははは!!!」


 こうして城攻めの策を練り上げた孫策軍は、太史慈捕獲と劉繇残党軍撲滅に乗り出したのであった。

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