第266話 嫌な予感は当たるもの

 一方劉備の方だが、彼は徐州の城で異変が起きていることなど露知らず、初戦以降、戦を優位に進めていた。


 劉備たちがいる場所は淮陰わいいん という地の河畔。

 時刻は黄昏。


 関羽は部下を従えて、この時刻恒例の見廻りを行っていた。


「しっかり見張るのだぞ!蟻んこ一匹侵入させるな!!」


「「ははっ!了解であります!!」」


 歩哨ほしょうたちは元気よく答え、目をカッ!と開いて周囲の見張りを行った。

 すると・・・


「ややっ!あれは何だ!敵か!それともゾウさんか!!」


 歩哨の一人が彼方を指さし、声を上げた。

 彼の近くに関羽他、脇役兵数名が駆け寄る。


「関羽将軍!あそこであります!!」


「むっ!? 確かに何者かが近づいて来るな・・・敵か・・・いや!違う!あ、あれは!!」


 関羽は彼方から近づいて来る一団の正体に気付き、驚きの声を上げた。

 ここへ来るはずのない人物。

 自分たちのいない徐州の城を守っているはずの義弟。

 その彼がボロボロになった少数の兵を連れて淮陰の地にやって来たのだ。


「・・・張飛だ。何故張飛が此処に・・・?」


 関羽はいよいよ怪しんだ。そして同時に、嫌な予感に襲われた。


 吉事でなければ凶事であるに違いない。


 自分の元にやって来た張飛に対して、関羽は激しく詰め寄った。


「おい、張飛!どうしたんだ!!」


「・・・すまない。」


 あの豪放磊落ごうほうらいらくな男である張飛がニコリともせず、一言謝り、自分に対して頭を下げるだけ。

 まるで別人のようである。


「すまないではない!一体全体どうしたというのだ!!」


 関羽が肩を打つと、張飛は震える声で、


「・・・面目ない。生きて兄貴たちに合わせる顔もないのだが・・・とにかく侘びと事の報告をするため、恥を忍んでここまでやって来た。・・・兄貴に取り次いでくれ。」


 と、謝罪の言葉を続けるだけであった。


「ううむ・・・こいつはただ事ではないな・・・わかった。ちょっと待っておれ。」


 事の重大さを察した関羽は劉備を呼びに向かった。

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