第267話 自分の責任は自分で取ること

 主君であり義兄である劉備を前に、張飛は自らの失態を報告した。


 禁酒の約束を破ったこと。

 酒が原因で曹豹が裏切ったこと。

 徐州の城を呂布に奪われたこと。


 張飛は全てを包み隠さず報告した。

 話を聞いた劉備は、


「・・・・・・」


 と、黙然し、言葉もなかった。


 怒りの言葉無く、沈黙のまま。


 超重量級の重苦しい空気に、張飛は、


(いっそ怒鳴ってくれた方がどれほど楽だろうか?)


 と、面も上げずに詫び続けるしかなかった。



 ――――長い沈黙を経て、劉備は張飛に尋ねた。


「ぜひもない。・・・それで、私の母と妻はどうした?」


 開口一番、張飛の心臓をえぐり取るような痛恨の問いかけ。

 彼はギクッ!ギクギク!と心を震わせ、喉をゴクリッ!ゴクゴク!と大きく鳴らした。


「・・・・・・」


「・・・張飛。なぜ黙っている?」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・答えろ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・聞こえんのか?あ?」


「ひぇっ!? じ、実は・・・」


 威圧感溢れる劉備の問いに、張飛は恐れおののいた。

 冷や汗が止まらない。

 喉はカラカラ。

 体は震え、目がシパシパする。

 しかし、答えないわけにはいかない。

 自分で招いた愚かな結末。

 自分のケツは自分で拭くしかないのである。


 張飛は蚊の鳴くような声で、鼻をすすって泣きながら答えた。


「そ、それが・・・酔っぱらっていたので・・・その・・・お助けするいとまもなく・・・」


 張飛の答えを聞くや否や、関羽はきこんで、


「なにっ!? では、お前はご母堂もご夫人も呂布の手に委ねたまま、一人で落ち延びて来たのか!!」


 と、怒鳴り散らした。


「申し訳ございませぬ。」


 張飛はただ頭を下げて謝るしかなかった。

 ひたすらに・・・そう、ひたすらに謝るしかなかった。

 今回の失態と、これから自分がしようとしている愚かな行為に対して頭を下げて謝るしかなかった。


「・・・拙者は命が惜しくて此処に落ち延びて来た訳ではございませぬ。」


「此処に来たのはひとえに、けじめをつけるため。」


「兄貴!これで拙者の落ち度をお許し下され!!」


 覚悟を決めた張飛は剣を抜き、自ら自分の首を刎ねようとしたのであった。

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