第250話 どんな時も油断しない

 呂布は何も知らなかった。

 彼が聞いたことは、『劉備の元に勅使が下がって、彼を正式に徐州の太守に任命した。』ということだけであった。

 そして、彼はその日、その祝辞を述べるために劉備に会いに来ていただけであった。


 ――――で、劉備との話を終え、彼が長い廊下を悠然と退がっていたその時、事が起きた。


「待てっ!呂布!ここでお前を成敗してくれる!!」


 物陰より待ち構えていた張飛が、彼の前へと躍り出て、大剣を抜きはらって斬りつけて来た。


「命はもらったァーーーーッ!!」


 ガオオン!!


 真っ二つにせんとする勢いで迫りくる刃。

 しかし、さすがは呂布。

 彼に油断は無かった。


「あっ!?」


 と、驚きはしたが、彼は廊下の床をパッと蹴り、大きな体格を後ろに退げて、張飛の一撃を見事に躱した。


「貴様は張飛!これは何の真似だ!!」


「テメェの目はマヌケか?見れば分かろう!死ねぇ!!」


 ビュッ!


 再び迫りくる死の刃。

 呂布は腰に差してあった大剣を抜くと、今度はそれを剣で受け止めた。


「何故俺を殺そうとする!!」


「知れたこと!世の中の害物を除くためだ!!」


 ビュッ!ビュッ!


「どうして俺が世の害物かっ!!」


「義なく!節なく!離反あり!行く末は国家に仇なす悪鬼なりと、朝廷から殺してくれと命が来ているのだ!」


「なにっ!?」


 ビュッ!ビュッ!ビュッ!


「待てっ!張飛!俺にそんな気は毛頭ない!!」


「黙れっ!そうでなくとも俺は普段よりお前のことが気に食わん!傲慢不遜な狂狼め!地獄に落ちて、閻魔の旦那に尻尾でも振りやがれ!!!」


 ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!


 二つの刃が戛然かつぜんと空で鳴る。

 そして、数度目の音が鳴り響いた時、


「止めんか!!」


 と、張飛に対して叱声が飛んだ。


 張飛が驚き、声がした方を見ると、そこには彼の義兄の劉備がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る