第245話 良い君主に仕えること
サササササ!
シュシュシュシュシュ!
パパパパパ!
忍者の如き軽やかな足取りで、闇夜を駆ける満寵。
彼は一人陣地へ
そして、徐晃のいる幕舎の中を覗き込むと、彼は一人、鎧もとかず、椅子に座って物思いにふけていた。
(・・・俺、何してんだろ?俺はこのまま一生、楊奉の下で腕を振るうのか?)
徐晃は将来に不安を感じていた。
『人の縁は運しだい。』
そんな事は彼も十分にわかっていた。
(無能な楊奉の下で働くことになったのは宿縁なのだろう。・・・諦めるしかない。・・・でもなぁ~。(-ω-;)ウーン)
やはり、それでも割り切れない。
徐晃が一人、腕を組んで思い悩んでいると、「これはチャンスだ!」と、満寵が幕舎へ侵入した。
「!? 何者かっ!」
「シ~!シッ!シッシッシッ!大声を出すな!俺だよ!俺!満寵だよ!お久~~!!」
満寵は人差し指を口の前に立て、徐晃に声を出さないようお願いして、その後、手をひらひらと振って彼に自分の正体を話した。
「何だ・・・満寵か・・・って、お前!どうしてここへ来た!」
「だから大声だすなって!ここへ来たのはお前と話がしたくてだよ!」
「俺と話が?」
「そうだよ。戦場でお前の姿を見て旧交を思い出してな。なはははは!」
カラカラとした笑い声で場を和ませる満寵を見て、徐晃は緊張が解けたのか、声を静めて、満寵と会話を始めた。
「相変わらず良く分からん男だ・・・にしても、今は敵味方の関係だぞ。旧友とて」
「STOP!S・T・O・P!STOPだ!分かっている!お前が言いたいことは分かっている!だから俺がこうしてここに来たのだ!」
「??? どういうことだ?・・・いや、まて、・・・まさか!!」
「YES!YESだ!その通り!我が主君、曹操様より密々に命を受け、ここに忍び込んだわけだ!お前を口説き落とすためにな!!」
「・・・マジでか?」
「イエッス!マジもマジだよ!大マジよ!曹軍随一の武将である許褚と互角の戦いを繰り広げたお前の武勇に曹操様は深く惚れ込んだわけよ!そして、曹操様は皆の前でこうおっしゃった!『あの男・・・もったいねぇ~!』とな!だから昼間の戦で銅鑼を鳴らして軍を撤退させたのさ。」
「ああ・・・そういうわけか。」
「そうそう、そうそう、そういうわけさ!・・・んでだ。何故お前ほどの勇士が楊奉の如き、暗愚で小者な三流人間を主と仰いでいるのだ? 人生は百年足らず!後悔先に立たず!
「・・・いや、俺も楊奉の無能さは知っている。でも、もうどうにもならないだろ?一宿一飯の恩。主従の宿縁はどうにも」
「なる!何故そこで諦める!来い!徐晃!俺と一緒に曹操様の元に行くぞ!」
「!? ま、待て待て!曹将軍の英名はかねてより知っているが、一日でも主と仰いだ者を裏切るなど、俺には降伏しても出来な」
「うるせェ!行こう!!どんっ!!!」
幕舎の中でギャーギャー!と声を大にして騒ぎまくる両名。
当然、この声は幕外にも響き渡った。
陣の見回りをしていた楊奉の部下は、
「楊奉様!大変です!徐晃が今、自分の幕舎に敵方の者を引き入れて、密談(笑)をしております!」
と、直ちに楊奉へ報告した。
報を受けた楊奉は、たちまち徐晃を疑い、
「ええい!なんたる奴だ!すぐに徐晃をひっ捕らえて此処へ連れて来い!」
と、十数騎を徐晃の幕舎へ送り込んだ。
しかし、曹軍の伏兵が徐晃の幕舎の前に立ちふさがって、それを追い退け、その隙に満寵は無理矢理に徐晃を連れて、共に曹陣へと逃げ出した。
「ちょっ!? お前!ふざけんなよ!裏切るにしてもこれはねぇだろうが!」
「なはははは!すまんすまん!まさかこんな事になるとは思わなんだ!大失敗・・・いや、結果的には大成功か!なはははは!」
「・・・言葉もない。・・・でも、まぁ、これで嫌な気持ちは晴れたか。これからよろしく頼むぞ、満寵。」
「それでよし!ドンッ!!」
結果良ければそれで良し!
満寵は徐晃を口説き落とすという任務に見事成功したのであった。
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