第246話 権力だけには縋らない

「連れて来たよ!徐晃を!!」


「でかした!!」


 曹操ェは、破顔一笑、満寵を大いに褒め称え、連れて来た徐晃と共に二人を陣へと迎え入れた。


「近来、第一の喜びだ!」


 士を愛することは女を愛すること以上である曹操が、いかに徐晃を優遇したかは言うまでもないだろう。



 徐晃が曹操の元に降ったことにより曹操軍の勝利は確定した。


 楊奉と韓暹の二人は幾度となく曹操軍に奇襲を仕掛けたが、曹操軍はそれらを全て返り討ちにして戦に圧勝していた。

 所詮は、賊軍まがいの雑軍である。

 加えて随一の武将である徐晃が敵の戦力に加わったとなれば敗北は必至。

 勝ち目がないことを悟った2人は南陽にいる袁術えんじゅつを頼って落ち延びて行った。


 こうして曹操は、自分に異を唱える者全てを排除することに成功して、帝の御車を連れて、許昌へと到着した。


 曹操の言う通り、許昌には洛陽に足りないモノ全てが備わっていた。


 土地は肥えており、宮門殿閣があり、防壁が張り巡らされており、城下の流通具合はAE〇N(イ〇ン)グループも真っ青になるほどの盛況っぷりであった。


 許昌に着いた曹操はまず、宮中を定め、宗廟そうびょう(=帝王の祖先の霊をまつったやしろ)を造営し、何やかんやを建て増しして、許昌の面目を一新した。

 そして、彼は行政改革を行った。


 荀彧は、『侍中尚書令じちゅうしょうしょれい』。

 荀攸は、『軍師』。

 郭嘉は、『司馬祭酒しばさいしゅ』。

 劉曄りゅうようは、『司空曹掾しくうそうじょう』。

 夏候惇、夏侯淵、曹仁、曹洪などの直臣じきしん(=直属の家臣)は、『将軍』。

 楽進、李典、徐晃は、『校尉』。

 許褚、典韋は、『都尉』。

 董昭は、『洛陽の令(=県令)』。

 満寵は、『許昌の令』。

 そして、自らは『大将軍武平候たいしょうぐんぶへいこう』という重職に坐った。


 このように、重要な地位を自分と自分の部下につけることで、彼の権力は飛ぶ鳥を落とす勢いとなった。


 故老の朝臣たちはというと、彼らは大臣とか元老とか名ばかり重職につけられ、日陰の存在へと追いやられていた。


 故老の朝臣たちは嘆いた。


「一人を除けばまた一人が現れる。漢家ももはやこれまでか。」


 彼らの嘆きは曹操の耳にも届いていたが、彼は全く動じなかった。


(今まで何も事を成さなかった無能共が、何故事を成そうとする私を批判するのか?私にはそれが理解できないし、理解しようとも思わない。)


 曹操は栄養のない意見を尊重しない。自分の糧となる意見を尊重するのみ。


 そうすることで、曹操は前へ前へと進んで行き、大事を成して来たのである。


 しかし、思い返せばこの権力を得るために、曹操は各地を転々として戦い続けてきたのである。


 紆余曲折うよきょくせつな道であったが、優秀な部下に支えられ、自分の力を最大限に発揮することにより手に入れた絶対的な権力。


 しかし、彼は権力だけにはすがらない。


 これからも多くの人物に支えられ、人と権力を駆使して彼は前へと進み続けるだろう。


 曹孟徳の快進撃が、今、始まろうとしていた。


第九章 完

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