第172話 相手は選びたい

 丞相府にて。

 李儒が呂布の屋敷に赴いている間に、董卓は後堂にある貂蝉の部屋へと出向いた。

 部屋へと出向いてみると、貂蝉は窓際にて独りでしくしくと泣いていた。

 その姿を見た董卓は、


「何をメソメソと泣いておる。此度の件はそなたにも原因があるのだぞ。」


 と貂蝉を優しく叱りつけた。

 すると貂蝉は「わーうわーわーーーー!」と悲しみの泣き声を強ませ、窓際よりトテトテトテ!っと足を走らせて董卓に近づき、彼を抱きしめ同情を買い始めた。


「でもでもでも~ん!呂布将軍は鬼の形相で、私を無理矢理、鳳儀亭へと連れ込もうとしたのですよ!そんなことされたら・・・私、困っちゃ~うじゃないですか!!」


「いや、まぁ・・・そうであるな。良く考えてみると悪いのはそなたでも呂布でもない。わしの監督不行届が原因だ。・・・すまぬ。」


「そうです!そうですとも!もっと反省して下さい!わーーーん!!」


 董卓の胸をドンドンと叩いて嘘泣きを続ける貂蝉。

 そんな彼女の背をなでながら、董卓は呂布の妻になるように彼女を説得し始めた。


「貂蝉よ。呂布のことだが・・・。呂布はそなたを大層愛しておる。そこで、わしはそなたを呂布にやろうと思うておる。そなたも呂布を愛してやるがよい。」


「・・・はっ!? えっ? いきなり何を言い出すのです? I don't know what you mean!(=意味わかんないこと抜かすなボケェ!)」


「いや・・・その・・・あやつがどうしてもそなたが欲しいと聞かぬのでな。いっその事、そなたを奴にくれてやろうと思うて・・・な。」


 董卓が申し訳なさそうにそう言うと、貂蝉は彼の腰に差してあった剣を素早く抜き取り、自身の喉に突き当て、泣き叫んだ。


「嫌です!嫌です!嫌嫌嫌です!あんなドジ、バカ、マヌケの三拍子が揃った将軍に嫁ぐのは嫌です!そんな辱めは受けません!屈しません!」


「あんな乱暴者の将軍に嫁ぐぐらいなら・・・死にます!さ~よお~な~ら!チャンチャン!!」


 そう言って貂蝉は剣を喉に突き立てようとしたので、董卓は慌てて彼女の手から剣を取り上げた。


「わ、わかった!貂蝉!呂布の元にそなたを嫁がせるのは止める!!だから早まるでない!!」


「・・・本当ですか? 貂蝉>>>>>>>呂布の方程式で間違いありませんか?」


「間違いない!約束する!そなたは誰にも渡さん!明日、郿塢城へと帰り、生涯をわしと共に暮らそう!!」


「太師様・・・嬉しい!!」


 貂蝉は再度董卓の胸に飛び込み、今度は嘘の嬉し泣きを始めた。


 全身全霊の魔女の嘘泣き。


 もうここで終わっても構わないという覚悟を持って、ありったけの嘘泣きをする魔女。


 この魔女の嘘泣きに董卓はコロッと騙され、彼は彼女の術中にまんまと陥ったのであった。

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