第163話 不審な言動はしないこと
董卓のいる寝室にて隠れて抱き合う呂布と貂蝉。
呂布は貂蝉を恨みがましい眼で見つめて、彼女の真意を確かめる。
そんな彼の思惑を察したのか、貂蝉は彼の耳元でそっと囁く。
(将軍様・・・お許しください。コレは私の本意ではありませぬ。どうしようもなかったのです。こうしなければならなかったのです。怒りを抑えて下さいまし。今、太師に逆らえる人は誰もおりませぬ・・・。)
彼女の囁きには同情を誘うような、哀れを乞うような思いが含まれていた。
貂蝉の囁きに単純な呂布はすっかり騙され、彼女に対する恨みは無くなっていた。
その代わりに董卓に対する恨みは増々強まった。
(やはり太師が全て悪いのか・・・し、しかし・・・。)
董卓への恨みが強まる一方で、逆に自分の置かれている立場の複雑さも増していった。
呂布が、「どないすっぺ!どないすっぺ!どうしよぉ~!!」と1人悩んでいると、屏風の向こうより董卓の声が発せられた。
「貂蝉。・・・誰か参ったのか?」
声を聞いた2人は、サッと離れて距離を取り、貂蝉は董卓の問いに答えた。
「は、はい。呂布将軍が参られました。」
「呂布?呂布が来ておるのか?」
「左様でございます。」
「ふむ。・・・しばし待てい。」
董卓は巨漢を震わせ牀から起き上がると、ノッシノッシと大きな足音を響かせて2人の元に近づいた。
「むむっ。確かに呂布ではないか。・・・して、こんな所にまで来るとは何用じゃ?」
「えっ!? ええと・・・それはですね・・・その・・・。」
董卓の問いに呂布は口ごもった。
「貂蝉に会いた~い!会いたいよ~!ピャーーオ!!」という軽い気持ちで閣に来ていた呂布はこの展開に関しては完全にノープランであったのだ。
(やっべーー!どうしよ、どうしよ、どうしよ~~ん!!・・・そうだ!!)
普段は頭が回らぬ人間でも追い詰められれば回るモノ。
呂布は拙い理由でこの場に来た訳をごまかそうとした。
「実は・・・昨夜、ナイトメアを見まして。董卓太師が病に苦しみゲロを吐き、牀の上でのたうち回る夢です。はい。ですので心配してここまで来た次第です。はい。・・・ええと・・・その・・・以上です。はい。」
とんでもなく拙い理由を述べた呂布。
そして彼の挙動はおどおどしており、まさに不審者の行動そのものであった。
呂布の不審な言動を見た董卓は舌打ちをした。
「バカ者が!起きて早々にそんな縁起でもないことを聞かせるでない!!」
「・・・申し訳ありませぬ。しかし、私は太師の事を心配して」
「嘘つけ!お前の挙動はさっきからおかしいぞ!おどおどして気味が悪い!さっさとここから出て行け!!」
「・・・はっ。」
呂布は董卓に目を合わすことなく一礼して、静かにその場から立ち去ったのであった。
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