第162話 愛と憎しみは紙一重である
「董卓太師!ふざけんなよテメェ!俺の貂蝉に何してくれとるんや!上司と言えども、いてまうぞ!コラァ!!」
と言えるはずもなく、呂布は今、董卓のいる寝室の前で1人立っていた。
(お、落ち着くんだ俺・・・深呼吸だ・・・呼吸で心を落ち着かせるのだ・・・コーホー。)
彼は深呼吸して
部屋の中心には大きな
しかし、屏風で邪魔されている部分以外の部屋の様子を見ることは出来た。
呂布が寝室の中を覗くと、部屋の隅に置かれている鏡に向かい貂蝉が化粧直しをしていた。
それを見た呂布は愕然とした。彼の嫌な予感が的中したのだ。
(な、なんてこった。貂蝉よ。お前は太師に傷モノにされてしまったのか・・・。)
(・・・しかし、太師も酷いが貂蝉も貂蝉だ。あんな豚にひょいひょい連れて行かれるなど、女としてのプライドは無いのか?)
(・・・いや待て、落ち着け俺。貂蝉はか弱い女性だ。太師に求められれば逆らうことなど出来はしないだろう。)
(・・・となると誰が悪いのだ?やはり太師か?・・・いや待て、疑うべき奴はもう1人いる。貂蝉の側にいた、彼女の親である王允だ。奴は一体何をしていたのだ?)
(王允はハゲでチビでジジィで狸でろくな奴ではない。奴がしっかりとしていればこんな事にはならなかったのではないか?・・・奴は文句なしに悪いな。)
(まぁいろいろ考えた結果・・・・・・やはり太師が全部悪い!!)
太師が悪いと決めつけた呂布は顔色が悪くなった。
自分に良くしてくれている上司が自分の愛する女性を寝取ったのだ。
寝室へ近づく前は怒りに任せて董卓を殺そうとしていた彼であったが、いざその場に来ると考えも変わる。
董卓の恩を思い返し、彼は踏みとどまった。
呂布はこのまま寝室に乗り込み、董卓を殺しそうな自分をグッと堪えた。
怒りと憎しみと何とも言えない悲哀が彼の胸中に渦巻く。
かつて自分の義父を殺した時とは違う別の感情が彼の心を支配したのであった。
呂布が顔を青ざめて貂蝉の化粧直しを見つめていると、彼女は彼の視線を感じ取ったのか、入り口の方に顔を向けた。
(呂布将軍!!)
呂布に気付いた貂蝉は足音を殺し、入り口の方へ近づいた。
(おおっ!貂蝉!!)
呂布も足音を殺して寝室へと侵入した。
そして、董卓に気付かれぬように屏風の陰で2人は抱き合った。
「将軍様・・・」
「貂蝉・・・」
狂狼と魔女の憎愛が、今、激しく燃え盛ろうとしていたのであった。
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