第155話 粗相はしないこと

 明くる日。

 王允は朝廷へと出仕して、呂布に見つからないように董卓と面会した。


「王允殿ではござらぬか。今日はわしに何か用ですかな?」


 董卓の問いに王允は長台詞にて答える。


「実は私、太師たいしが毎日、毎日、糞つまらない政務をこなして、社畜生活を満喫していると耳にしました。そのような生活を続けられるとストレスが溜まり、疲労で頭がパーンッ!となってしまいましょう。」


「そこで、太師を慰労いろう(=苦労をねぎらうこと)したく、私の屋敷にてささやかな酒宴を設けました。」


「もし太師に来ていただけますならば、私の生涯におけるハイ・ヴォルテージな喜び事の一つになるのですが・・・いかかでしょうか?」


 王允の言葉を聞いた董卓は、


「それはかたじけない。王允殿は国家の元老。その招待を断るのは失礼にあたるというもの・・・この董卓、喜んで酒宴に参加させて頂きますぞ。」


 と、喜んで参加する意思を表明した。


 王允は屋敷に帰るとすぐに、貂蝉と家人に董卓が屋敷に来ることを話し、彼らに「絶対に粗相をするな!したら全裸で屋敷から放り出す!」と念を押した。

 そして、一晩かけて彼らはもてなしの準備を行い、明くる日の董卓参上に備えたのであった。



 明くる日の夕刻。

 董卓は馬車に乗り、数百名の護衛に囲まれた物々しい行軍にて王允の屋敷を訪れた。


「董卓太師のおな~り~!!」


「ははぁ!!」


 董卓が到着すると王允はすぐに門へと赴いて、膝をつき、拱手きょうしゅをして彼を出迎えた。


「董卓太師。ご足労頂きありがとうございます。董卓太師が我が屋敷に参られたこと、至極光栄に存じます。」


「おうおう、王允殿。出迎えご苦労でござる。」


「ありがとうございます。・・・さあさあ、宴席へどうぞ。」


 王允は董卓一行を宴席へと案内した。

 この時、董卓は特別室へ、董卓の従者たちは董卓とは別室の大広間に案内された。


 董卓が案内された部屋は少し薄暗い部屋であった。

 しかし、その部屋に用意されていた品物の数々は素晴らしいモノばかりであった。


 豪勢な御馳走に天下の美酒。

 瑠璃色の杯に金の細工が施された器。

 董卓を歓迎する大勢の美人な侍女。


 これらを振舞われた董卓は大満足な様子で、


「王允殿。わしが今より出世したらお主をもっと重く用いてやるぞ。」


 と王允に対し、彼なりの最上の言葉を述べた。


 董卓からお褒めの言葉を頂いた王允は「ありがたきお言葉。」と礼を述べ、そして侍女に手で合図を送った。

 すると、侍女たちは部屋中の燭台に火を灯し、薄暗かった部屋を白日のような明るさにした。


「むっ!? 王允!これは何の真似であるか!!」


「ははは。董卓太師。ご安心を。今よりちょっとした余興をお見せいたします。」


「ほう、余興とな・・・。」


 董卓は最初こそ慌てたが、王允より事情を聞いた彼はリラックスした姿勢を取った。

 すると、彼の座っている席の正面のすだれが巻かれ、そこより貂蝉が姿を現した。

 そして、貂蝉の登場と共に侍女たちは楽器を使って演奏を始め、貂蝉は舞を披露したのであった。

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