第156話 平然とやってのける人になろう

 曲に合わせて貂蝉は舞う。

 ただ一人の観客のために、彼女は瞳を輝かせて舞い踊る。

 ヒラヒラと袖が宙を泳ぎ、まるで蝶が羽ばたいているかのような美しい舞いを披露する彼女の姿に、董卓は目を奪われていた。


「な、なんと美しい女だ。これほどの美女はわしの後宮にもおらぬ。」


 貂蝉の舞を鑑賞しながら董卓が1人唸っていると、やがて曲が終わった。

 そして、貂蝉は呂布に述べた一言を董卓に向けても述べた。


「お粗末さまでした。」


 彼女の一声に董卓は、


「う~む。・・・結構だ。すごく結構であった。」


 と手を鳴らしながら再度唸り、彼は王允に尋ねた。


「王允殿・・・あの娘は一体誰の娘であるか?ただの女楽にはとても思えぬ。」


「おやおや、董卓太師。あの娘がお気に召したのですかな?」


「うむ。あれほどの娘はわしの後宮にもおらぬゆえ、是非とも彼女を後宮に迎え入れたいと思うてな。・・・して、あの娘は何者であるか?」


「あの娘は私の娘にございます。」


「なにっ!王允殿の娘とな!!」


「左様でございます。・・・貂蝉。ここへ来て、董卓太師に酒を注いで差し上げろ。」


「・・・はい。」


 貂蝉は消え入るような声で返事をして董卓に寄り添い、彼の杯に酒を注いだ。


 ここで読者の皆様に想像して頂きたい。


 今、あなたは国一番の権力者である。

 あなたが望むものは何でも全て手に入る。

 あなたに逆らう者は誰もいない。天子であろうと親であろうと兄弟であろうと誰でもだ。

 そんなあなたの隣に、あなたの理想とする最も美しい異性がいるとしよう。

 あなたはその異性をどうしますか?



 恐らく大半の読者が想像したであろう事柄を董卓はリアルにやってのけた。


「王允殿!娘を・・・貂蝉をわしにくれ!お主の欲しいモノは何でもくれてやる!だから貂蝉をわしによこせ!!よいな!!!」


「よろしゅうございます、董卓太師!娘もそれを望んでおりますゆえ、どうぞお持ち帰り下さい!貂蝉をご堪能あれ!!」


「よろしい!ではわしの屋敷に連れて帰るとしよう!!ぬははははは!!!」


 さすがは董卓である。

 私たちに出来ないことを平然とやってのけるその姿に、私たちはシビれ、憧れるしかないだろう。


 そして、董卓はご満悦もご満悦。

 彼は宴会をさっさと切り上げ、貂蝉の手を握りしめながらスキップをして馬車に乗り込み、丞相府に車を走らせたのであった。

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