第142話 襄陽の戦い その六

 大口を叩いた割にあっけなく敗れ、大勢の兵士を失い襄陽城へと帰還した蔡瑁。

 彼は今、軍議にて、君主の劉表ではなく、同僚の蒯良から叱責を受けていた。

 蒯良は公衆の面前で蔡瑁に自身の提案を反対された恨みを晴らすべく、彼は蔡瑁を大いに罵っていた。


「蔡瑁君、君ね、言ってることと結果が違うようだけど・・・何故かな?どうしてかな?答えてくれるかな?」


「・・・」


「ねぇねぇ、君さ、黙ってちゃわからないんだよね?答えてよ?ほらさぁ。良い子だから答えてくれるかな?」


「・・・」


「蔡瑁君。君さ、もしかして仕事舐めてる?」


「・・・そんなことはないです。僕なりにしっかりと仕事を頑張ったつもりです。」


「頑張った!ほほう頑張ったと来ましたか!結果も出てないのに頑張ったと!!コレは面白い!なるほど、なるほど、そうですか!ははははは!!」


「・・・申し訳ございません。」


 蔡瑁は謝ったが、蒯良の怒りは収まらなかった。


「劉表様。私の計を用いずに、大敗を喫した蔡瑁の罪は重罪です。罪には罰を。蔡瑁に死罪を要求します。」


 蒯良は軍法に照らし合わせて蔡瑁の処刑を劉表に申し出た。

 それに対して劉表は、困った表情でこう述べた。


「蒯良・・・お前の怒りは良くわかるが、蔡瑁も謝っているんだから許してやれ。」


「しかしですな、劉表様。」


「蒯良。今は一人の将も無駄に出来ない状況にある。蔡瑁の首を跳ねてしまっては敵に利を与えてしまうことになるぞ。」


「むぅ。・・・・・・わかりました。劉表様がそこまで言うのなら許しましょう。」


 蒯良は腑に落ちなかったが、主である劉表の言葉であるため、彼は素直に引き下がることにしたのであった。


 ここで、劉表が何故困った顔をして蔡瑁の罪を許したのか説明しておく。

 蔡瑁には妹がいるのだが、この妹が絶世の美女であり、近ごろ劉表は、その妹をひどく可愛がっていた。

 そのため、兄の蔡瑁を殺すのを躊躇してしまったのだ。


 劉表の助平心に救われた蔡瑁は胸を撫で下ろし、改めて軍議に参加することにした。


 その日の軍議は少々揉めたが、結局は蒯良の提案した、「袁紹に救援を求め、それまでは防備に徹する」という軍事方針に決まった。

 そして、その防備の任を命じられたのは、提案者の蒯良であったことは言うまでもない。

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