第124話 磐河の戦い その四

 『白馬陣』

 陣という名がついているが、これは陣形の名前ではない。公孫瓚の軍にある騎馬隊の名称である。

 先年の蒙古もうこ(=モンゴル)との戦いにおいて、公孫瓚は白き武具を身に纏った白馬の騎馬隊を編成して、熱烈苛烈に敵を打ち破った。

 それ以来、彼の『白馬陣』といえば天下に有名になっていた。



 公孫瓚は白馬陣に絶対の自信を持っていた。

 この白馬陣で異民族を多く打ち破ってきたことは、彼にとっての誇りであった。

 公孫瓚は隊の先頭に立ち、味方を鼓舞して士気を上げる。


「この無敗の白馬陣で袁紹軍を打ち破る!全員!気合を入れよ!!」


「「おう!おう!おおおう!おう!おおおう!!」」


「馬どもも気合を入れよ!!」


「「ヒン!ヒン!ヒヒヒン!ヒン!ヒヒヒン!!」」


「よし!気合十分!では白馬陣よ!盤河橋を踏み渡れ!!」


「「おおんっ!!」」


 公孫瓚は勇ましい部下たちに号令を下し、彼らは敵陣へと向かった。


 さすがは公孫瓚が誇る白馬陣。

 その進行速度は風を切るように速く、草や木の葉は彼らが駆け抜けた後、激しく揺れていた。


 白馬陣は盤河橋をあっという間に踏み渡り、袁紹軍の中軍へと攻め入った。

 しかしその時、中軍より狼煙のろしが上がった。

 その狼煙を見た顔良と文醜は部下に号令を下した。


「合図だ!皆の者!矢を放て!!」


 袁紹は中軍の両翼に顔良、文醜を将とした弓隊を配置していたのだ。

 彼らは狼煙の合図に合わせて矢を放ち、中軍へと駆ける白馬陣を左右より射抜いた。

 左右より射抜かれた白馬陣は勢いを殺されてしまった。


「ははは。勢いを殺された白馬陣など恐れるに足らず。・・・それっ!!」


 顔良と文醜は素早く隊を動かし、中軍と両翼で白馬陣を包囲した。

 包囲されたことにより、白馬陣の先陣を務めていた『厳綱げんこう』は、たちまち討たれ、白馬陣は浮足立った。


「殿!このままでは全滅です!退きましょう!!」


 と部下はしきりに公孫瓚に進言したが、公孫瓚は首を縦には振らなかった。

 「私の自慢の白馬陣がこんなに簡単に敗れるはずが無い!」という彼のプライドが撤退を許さなかったのだ。

 しかし、プライドで戦況が覆るはずもなく、白馬陣の騎兵たちは白き姿を自らの血で赤く染めていった。

 

 ズタズタに斬り裂かれる白馬陣。

 そして、


「見よ!あれが公孫瓚だ!奴を殺せ!!」


 という顔良と文醜の両名の叫びと共に、袁紹軍の将兵たちが一斉に公孫瓚に向かい突撃していった。


「殿!もう限界です!撤退を!撤退をぉぉぉぉぉ!!」


「ぐぬぬ!・・・しかたない!白馬陣よ!撤退だ!!」


 部下たちの悲痛な叫びと自身に迫る死を感じて、ようやく公孫瓚は撤退の命令を下したのであった。

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