第104話 中途半端には終わらせない

 全力で走り、目的地に到着する。


 聞こえはいいが、これには欠点がある。

 それは周囲への注意が散漫になるということだ。

 足元に落ちている石に気付かず、大けがを負ってしまうこともある。


 滎陽城を攻め落とし、最速で逃げる董卓を追いかける曹操軍。

 曹操軍は着実に李儒の考えた策にはまっていた。

 ゆっくり追撃していれば曹操も伏兵の存在に気づいただろう。

 しかし、彼ほどの男も『功』に焦ってしまっていた。


「この分なら、すぐに董卓軍に追いつける!皆の者!疾く駆けよ!!」


 勇敢に追撃する曹操軍。

 そして谷間たにあいへと歩を進めた時、ついにその時が訪れた。


「は~はっはっは!は~はっはっは!は~はっはっは!はははのは~!」


 李儒の奇妙な笑い声とともに、断崖の上から伏兵が姿を現した。

 伏兵に気付き、「しまった!」と思った時には既に手遅れであった。

 李儒率いる伏兵たちは断崖の上から大石を落として道を塞いだ。

 そして号令とともに、雨のように矢を放ち、曹操軍の兵たちを次々に射抜いた。


「このままではいかん!先へ進み、あそこの渓流を渡るのだ!」


 袋のネズミとなった曹操軍は渓流を渡り、危機を脱しようとした。

 しかし、渓流の周囲にある茂みや森林から、またしても矢が雨のように飛んできた。

 1万余名の兵たちは次々と倒され、曹操軍は徹底的に打ちのめされた。


「あれも死んだ・・・これも死んだ・・・なんてことだ。」


 一足先に渓流を渡り、後続の兵たちの様子を眺めていた曹操は愕然とした。

 愕然とする曹操に、小高い丘から1人の男が呼びかけた。


「ふははははは!曹操!お前の野望の夢も覚めたであろう!我が主君に背いた罰!今こそ受けるが良い!!」


 呼びかけた人物は呂布であった。

 彼は部下に号令を下し、死にもの狂いで暴れる曹操を捕らえようとした。

 そして、自身は小高い丘から曹操を眺め、野次を飛ばしていた。


「ははははは!いいザマだな曹操!ほらほらどうした?もっと必死に戦わないと死ぬぞ?頑張れ!頑張れ!」


 呂布を視界に捉えた曹操は呂布の立っている丘に近づこうとしたが、董卓の家臣の李傕りかくが、一軍を率いてそれを許さなかった。


「曹操を生け捕れ!」

「曹操を逃がすな!」

「曹操を倒せ!」

「曹操を縛り上げろ!」

「曹操をチョメチョメしろ!」


 李傕は兵たちを巧みに操り、曹操を取り囲んだ。

 もはや曹操の周りには仲間がおらず、彼は1人で雑兵を相手に戦っていた。


 『乱世の奸雄』と予言され、秀外恵中しゅうがいけいちゅう(=イケメン+賢いこと)である曹操も絶体絶命であった。


(くっ・・・どこにもない・・・バカな!どこにも『進むべき道』がッ・・・。)


(わ・・・私は今まで・・・『乱世の道』を進んでいれば必ず『光』が見えるはずと信じてきた・・・。勝利の方向を示す『光』が必ずどこかにあると・・・だからこの地まで進んで来れた・・・)


(私に背く刃が死を運ぶ。いつもと同じ戦場でもそこには『進むべき道』を見出すことができない。)


(そんなバカな!どこにも見えないッ!)


(董卓軍に私は追いつめられてしまったのか・・・すでに・・・すでに!こんな場所で・・まだ何もかも途中だというのに・・・)


(奸雄への道もまだ序盤というのに・・・まだ何もかも途中だというのに・・・)


(『進むべき道』がどこにもないッ・・・ここで道が終わってしまうのかッ!私はまだ何ひとつ決着をつけていないッ!)


 このまま曹操は死ぬのか?

 乱世の奸雄だと称された青年も現実の前に敗れてしまうのか?

 曹操自身もそう思ったその時、彼の耳に馬の蹄の音が聞こえてきた。


 曹操の家臣『夏侯淵』が血路を開いて彼のもとに駆けつけたのであった。

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