第84話 誰もやりたがらない

 曹操の策は成功した。

 曹操の檄により河南の陳留に大勢の将兵が集まった。

 参加した諸侯は18ヶ国。

 兵力は数十万。

 それらを揃え並べた陣地は、200余里に及んでいた。


 曹操は集まった諸侯たちを一堂に集め、旗揚げの式を執り行った。


「諸侯の皆様方。私の檄に応じて下さり感謝しております。今この時より、反董卓連合の結成を宣言します。」


 旗揚げの式の会場にて、曹操は集まった諸侯一同に一礼し、連合軍結成の宣言をした。

 そして、曹操は諸侯一同に対してこう提案した。


「さて皆様方。反董卓連合が結成したのはよろしいのですが、この軍に足りていないモノがあります。そこで、今この場にてその足りないモノと決めたいと思うのですがよろしいですかな?」


「足りないモノ?将も兵も馬も武具も兵糧も衣服も金銭も気合も根性も愛も勇気も魂もその他もろもろ全てそろっているぞ。一体何が足りんというのだ?」


 渤海の太守にして名家の生まれである袁紹は曹操に疑問をぶつけた。

 曹操は袁紹の発言に対して一笑すると、足りないモノについて述べた。


「袁紹よ。足りないモノは『物』ではなく『存在』だ。それはこの連合軍を統率する『総大将』という存在がいないのだよ。これだけの大勢力。総大将がいなければ統率がとれず、各陣営にてバラバラに戦に臨んでしまうことになる。そうならないためにも『総大将』という存在が必要なのと思うのだが・・・お主は必要ないと思われるかな?」


 曹操は袁紹に嫌味ったらしくも意味ありげな口調と目配せで袁紹の問いに答えた。

 袁紹は曹操の意図を汲み取り、軽くため息を吐きながら「相変わらずの悪童っぷりだ。」と苦笑した。


 袁紹が自分の意図を汲み取ったとわかった曹操は諸侯一同に対してこう発言した。


「皆様方。私は袁紹殿を総大将として推挙します。袁家は先祖代々に渡って漢王朝の重職についている名家。その名望地位から見ても総大将として恥ずかしくないと思うが・・・いかがであろうか?」


 曹操の提案に対して、諸侯一同は賛成の意を示した。

 袁紹は「それがしには荷が重い」と三度ほど断る儀礼の姿勢を示した後、総大将になることを承諾した。



 次の日、袁紹は集まった大勢の将兵の前で出陣の儀式を執り行った。

 袁紹は祭壇に上り、将兵一同に対して宣戦の義を行った。


「なんちゃらかんちゃらこうちゃらら!諸侯一同に面倒事を押し付けられて、嫌々ながら総大将に着任した不肖袁紹!全身全霊を持って朝廷を救い、逆賊董卓を討つことをここに宣言する!!」


「「うっひょ~~!ひゃっは~~~!わけわかうきょ~~~!!」」


 袁紹の宣言を聞き、集まった将兵たちは歓喜の声を上げた。

 彼らの声は大地を震わせ、こだまして、いつまでも止むことはなかった。


 しばらくして、袁紹は両手を上げて将兵たちの歓声を静めると、今後についての2つの宣言をした。


「諸君!私は総大将に選ばれた!選ばれたからには立派にその任を勤めたい!功ある者は賞し、罪ある者は罰する!諸君らの働きに期待する!」


「また、私の弟である『袁術えんじゅつ』は経理の才がある!今日より、袁術を兵糧奉行とし、戦う皆を飢えさせないことを誓う!」


 袁紹の2つの宣言に対しても、将兵たちは歓声を上げた。

 そして袁紹は次に、董卓討伐のための先陣についての話をした。


「・・・さて、我々はこれより北上し、董卓討伐を開始するが・・・誰か先陣を承って、汜水関の関門を打ち破る者はいないか!」


「その先陣、私が引き受けた!!」


 袁紹の先陣話に1人の人物が名乗りを上げた。

 名乗りを上げた人物。それは長沙の太守『孫堅そんけん』であった。

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