第7話 人徳は重要

 劉備は張飛の経営している豚肉屋兼家の前に来ていたのだが、彼は張飛の家に入るのを躊躇していた。

 数刻前に会ったばかり、しかもさっきとは打って変わって真逆の話をしようというのだ。躊躇するのも無理は無かった。


(さて、何と言えば良いかな?)


 劉備が悩んでいると2人の男が話しかけた。


「劉備殿ではありませんか。いつもお世話になっております。」


「これは張世平ちょうせいへい殿に蘇双ふそう殿。こちらこそいつもお世話になっております。」


 劉備に話しかけた張世平は中山ちゅうざんの大商人で、甥の蘇双と共にこの村によく商売に来ており、劉備とは顔なじみであった。


「劉備殿。何かお困りの様ですがどうかなさいましたか?」


「実はですね・・・」


 劉備は張世平に事の次第を話した。

 もちろん、先ほどの母とのやり取りは語らず、打倒黄巾賊のために出兵しようとしていることだけを話した。


「なるほど。それで張飛殿と関羽殿の力を借りようというわけですな。」


「ええ。関羽殿のことは存じあげないのですが、張飛殿は見たところ体格もよく武勇に優れた人物の様ですので、是非力を貸していただきたいと思いまして、彼の家を尋ねようとした次第です。」


「私は関羽殿のことを噂でお聞きしたことがありますが、彼も武勇に優れた人物のようですよ。」


「本当ですか。さすがですね。中山随一の商売人だけはあります。」


「商売をする以上、ありとあらゆる情報を手にすることが重要ですからね。」


 張世平は笑いながら劉備に情報の大切さを語った。

 張世平が一通り自慢話のような話を終えると劉備にこう提案した。


「よかったら、私が仲介人になりましょうか?」


「仲介人?」


「ええ、私が劉備殿への資金提供者になります。そうすれば張飛殿と会うための口実へと繋がるでしょう。」


「???どういうことでしょうか?」


「劉備殿が義勇軍を作るために行動している。そして、そのために中山随一の大商人である私から快くお金を借りることができた。これを聞いた世間の皆様はどう思うと思われますか?」


「どう思うって・・・ああ、なるほど!」


「大商人から快くお金を借りることが出来る人物は周りから見れば『信頼できる人物』と言う風に見えます。そして、義勇兵を募り、民のために立ち上がろうとしている劉備殿は『高潔な人物』であるという風に見えるのは必然です。張飛殿とて例外ではないでしょう。」


「素晴らしい!」


 劉備は張世平に悩みを解決した嬉しさのあまり思わず握手をした。

 しかし、すぐに別の疑問が浮かび上がった。

 劉備が疑問の表情を浮かべたのを見て、張世平はこう言った。


「劉備殿。ご安心を。資金は本当に提供します。」


「張世平殿。何故私のような者にそこまでして下さるのですか?」


「それはあなたが『魅力ある人物』だからですよ。」


「私に魅力が?」


「左様。あなたはお気づきではないようですが、あなたには人を魅了する不思議な魅力があります。『いずれ大きなことを成し遂げるだろう。』そう思わせるほどの魅力があなたにはあります。」


「そうですかね?自分ではわかりかねます。」


 劉備は張世平の言葉に首を傾げたが、劉備は魅力ある人物、そう人徳のある人物だった。


人に優しく、嫌なことも進んでやってのける。

困っている人がいれば自分の出来る範囲で手伝いをする。

話し上手で聞き上手。

若干の腹黒さがあるが、それはある意味人間らしい一面を持つことの証明だった。


 そんな劉備のことを街の民たちは皆一目置いており、頼れる若者と言う認識を持っていた。

 劉備は生まれつき帝王としての魅力を兼ね備えた人物だったのだ。


「劉備殿。自信をお持ちください。では張飛殿の家に入るとしましょう。」


 そう言って張世平は張飛の家の扉をノックした。

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