第6話 愚か者には制裁を

「・・・嘘ぉ。」


 劉備は母の衝撃の告白に呆然としていた。


(わ、私の家系が劉勝の血を引く家系だと・・・。)


 呆然とする劉備を尻目に母は言葉を続ける。


「本当です。我が家はこの中国を統一した劉勝の血を引く家系です。その証拠に・・・玄徳。あなたが腰に差している剣こそがその証なのです。」


「この剣がですか?」


「そうです。我が家に代々伝わるその剣こそが帝王の剣なのです。」


 劉備は自分の腰に差してある剣を手に取ってまじまじと見た。


(うーむ。確かに家宝として代々伝わるだけはある立派な剣だとは思っていたけど、そんなに凄い剣だとは・・・売ればいくらになるのかな?)


 劉備がよこしまな考えを抱いていると劉備の母がまた怒り始めた。


「お前には帝王の血筋として立派な教育を施してきたつもりでした。弱きを助け強きを挫くことが人の上に立つ者の使命だと、引かぬ媚びぬ省みぬの精神こそが帝王たる者の心構えだと、そう教えてきました。」


「・・・」


「玄徳。あなたはその剣を振るうことなく一生を終えるつもりですか?苦しんでいる民を見捨てるのですか?帝王の血を引く者として恥ずかしくないのですか?」


「・・・ですが母上。私は母上の事が心配なのです。」


 劉備の超絶情けない言葉を聞いた母は怒りが頂点に達した。

 鬼のような形相になり劉備に罵声を浴びせた。


「そのような腑抜けた言葉を聞いて母が喜ぶとでもお思いで!そんな母親依存症の息子を母が喜ぶとでもお思いでしたか!」


「い、いえ、そんなことは・・・。」


「私はそれが腹がたつ!私はそれが悲しい!この愚か者!愚か者!愚か者!愚か者!愚か者!愚か者!愚か者ぉぉぉぉお!」


 劉備の母はまたもや劉備に対して手を上げた。

 パシッ!ピシッ!バキッ!ドカッ!グシャ!メコッ!いう音が部屋に響いた。


「ちょ、母上。グーは止めましょうグーは。」


「はぁぁぁぁぁ!!」


 劉備の母は劉備の懇願を無視して殴る蹴るの見事な連続コンボを決めた。

 母の怒涛の攻撃に耐えきれなくなった劉備は決意の言葉を叫んだ。


「わ、わかりました!母上わかりました!黄巾賊の討伐に参加します!この剣を掲げ大陸に平和をもたらすことを誓います!ですから拳を収めてください!」


 劉備が剣を鞘に収めたまま頭上に掲げてそう叫ぶと母は拳を下げた。

 そして、はぁはぁと息を切らせながら劉備にアドバイスをした。


「わかれば・・・わかればよろしいのです。では玄徳。先ほど名前を上げた張飛殿と関羽殿の2人に会ってきなさい。その者たちと討伐に参加するといいでしょう。」


「母上は張飛殿と関羽殿の両名をご存じなのですか?」


「いえ、その2人のことは存じ上げません。ただ先ほどの話を聞く限り、熱い魂を持つ人たちの様ですので、その人たちと黄巾党討伐に参加すると良いと思いました。あなた1人では心細いでしょうから。」


「・・・わかりました。母上。今から張飛殿と関羽殿に会ってまいります。私の力になってくれるように頼んでみます。」


 劉備は母に頭を下げると、街へ向かい走っていった。

 走り去る後ろ姿を見て劉備の母は目元に涙を浮かべた。


「玄徳・・・私は心を鬼神にしてあなたを叱りました。しかし、私を1人にさせたくないと思うその気持ち、母としてこれほどうれしいことはありませぬ。」


 劉備の母は両膝を地面につけて血まみれの両手を目元に当て泣いた。


 この話は誰も知らない。誰にも言えない親子だけのマル秘話であった。

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