第7話 立ち上がるみか
周囲を暗闇が包んでいる。
何も見えない。何も聞こえない。何もする気が起きずただ漠然と流されて行く。
みかはただ闇に浮かんで暗い空を見上げている。
自分は何故ここにいるのだろう。そんな疑問も現れては消えて行く。
〈わたしは宇宙人さんに会いたいんだ〉
掴みどころの無い意識の中でなんとなくそんな結論にたどりつく。
しかし、それは本当のことじゃない。わたしは宇宙人さんに会いたい訳じゃないんだ。暗闇の少女がそう言ったから? でも、あんな奴の言うことなんか信用出来ない。わたしはやっぱり宇宙人さんに会いたいのだ。
でも、それなら何故こんなに不安になるんだろう。わたしの目的ははっきりしているのに、何故かやりきれない気持ちになる。
これは多分あいつのせい。あいつが全部悪いんだ。あの黒い奴が……
「みかちゃん! みかちゃん!」
とりとめのない思考の渦に没頭するみかの耳に、不意に誰かの呼ぶ声が届いた。この声は誰? 宇宙人さん?
「みかちゃん! みかちゃんてば!」
心配そうに。悲しそうに呼びかける声。みかはこの声を知っている。随分昔からの古いつきあいの友達。そう、けいこの声だ。
みかの意識がゆっくりと覚醒していく。
〈ここはどこ? わたしはどうしてこんなところに……〉
おぼろげな暗闇の空を見つめながら、今更のようにそう思う。それと同時に闇の中でとりとめもなく考えていたことが流れ去る霧のように消えていった。
声を頼りに手を伸ばす。視界にぼんやりと光が射し込み広がっていく。眩しくなって思わず目を細める。そして、全身にはじけるような痛みが走った。
そこでみかははっと気がついた。ここは学校だ。わたしは宇宙人さんを探していて、そして……
「みかちゃん!」
自分を呼ぶ声に目を向けてみると、今にも泣き出しそうなけいこの顔が飛び込んだ。彼女の目にみるみる涙がたまって、みかの顔に落ちてきた。
「ほえ?」
ここはどこだろう。どうしてけいこは泣いているのだろう。まだ意識がはっきりとしない。
「けい……こ……?」
みかは寝ぼけたような声を発すると、顔をごしごしとこすり、ぼんやりと起き上がり周囲を見渡した。
みかの目にさっきまで宇宙人を探して歩き回っていた中庭の光景が映った。ここは……やっぱり学校だ。
「みかちゃん……良かった。わたし、もしかして宇宙人に殺されちゃったんじゃないかって思って……本当に良かったよ~!」
ぼんやりと座って辺りを見るみかの体に不意にけいこが抱きついて泣きじゃくった。
「痛!」
みかは背中を押さえて悲鳴をあげた。さっき石の山で襲われた時にしたたかに打ち付けた場所だった。
「あ! ご、ごめん! 背中どうかしたの?」
けいこは驚いて手の力をゆるめて心配そうにのぞき込んできた。
「なんでもないよ。ちょっと打っただけ。それに」
背中をさすりながら答えるみか。
「宇宙人さんは友達なんだよ。だから危険なことなんて何も無いよ」
みかの言葉にけいこは呆れたような悲しいような複雑な表情をした。
「みかちゃん、やっぱり宇宙人さんを探すのはやめた方が……」
「違うよ! 宇宙人さんは悪い人なんかじゃないよ! 悪いのはあいつなんだよ!」
そう叫んだみかの脳裏にさきほど見た光景が蘇った。暗い闇の中にたたずむ黒い影のような少女。不気味な呪文を唱え、みかを苦しめた。あれは夢だったのか現実だったのか。
いや、あれは確かに現実だった。みかの中の何かがそう確信していた。そう思い返すとまたあの時の恐怖が蘇ってくるようだった。思わず両手で体を抱き締めて身震いした。
「あいつ……って?」
おそるおそるといった感じでけいこが聞く。
「ううん! なんでもないよ!」
みかはあわてて手を振って誤魔化した。けいこはまだ心配そうに見つめている。
「けいこちゃん! わたし負けないよ! 絶対宇宙人さんに会ってやるんだから! だから、協力してね!」
みかは未だに不安そうに自分を見つめるけいこを元気づけようと大声で言った。そして、くじけそうな自分自身を励ますためにも決意を新たにした。宇宙人さんにはなんとしても会わなければいけないのだ。それは昔からのみかの夢なのだから。
「みかちゃんがそう言うんなら……」
けいこは少し考えるようにみかの顔を見つめた後、まだ不安ながらも決心して首を縦に振った。
「わたしもやるよ」
みかはその答えに満足して笑顔でうなずいた。
「そうと決まれば捜査続行だよ!」
みかは不安な気持ちを追い払うように力いっぱい立ち上がった。勇み立ちともすれば空回り暴走気味のみかを、早速けいこがなだめにかかる。
「みかちゃん、捜査続行の前にまずは今までのお互いの情報を整理しましょう」
「情報?」
「うん、お互いに別れて捜し回っていた時に見てきたものを教えあいっこするの」
「あ、うん、そうだね」
そして、みかとけいこのちょっとした会議が始まった。
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