第4話 みかの宇宙人捜索ミッション

「UFOさんはどこ行っちゃったのかなあ」

「いないねー」


 広々と横たわる校庭の隅っこで、みかとけいこはUFOを探してきょろきょろと辺りを見渡していた。朝早いその場所にはまだみか達以外誰の姿も見えなかった。

 緩やかな風がここには誰もいませんよと言わんばかりに空虚に吹き抜けていく。


「UFOさーん! 宇宙人さーん!」


 みかは大声で呼びかけながら校庭の中央へと歩いていく。けいこも同じように呼びかけながらみかの後をついていく。

 静かな校庭に吸い込まれるように彼女たちの声が広がって消えていった。


「UFOさーん! 宇宙人さーん!」


 少女達は歩きながら何回も何回も呼びかける。


「むうー、いないー!」


 みかはがっくりと肩を落とし、苦渋に満ちたしわを眉間に寄せた。


「もしかして見間違いだったのかな」


 不安そうに言うけいこ。そんな彼女の物言いにみかが噛み付いた。


「違うよ! 絶対見間違いなんかじゃない! UFOさんは絶対ここに降りたんだよ!」


 きっぱりとそう断言する。そして、決意に燃えた目で言った。


「探そう!」




 二人で相談して、みかとけいこは手分けして学校の周りを探すことにした。


「じゃあ、わたしはあっちを探すからけいこちゃんはあっちね」

「うん、分かった」


 二人は校舎の前で左右に別れた。

 一人になるのは不安だったけど、やはり別れて探すほうが速く見つかるだろう。それに入学式が始まるまでに見つけないといけない。急がないと宇宙人さんも帰ってしまうかもしれない。

 そう考えた末での選択だった。

 みかは内心どきどきしながら校舎の壁に沿って一人てくてくと歩いていた。やはり一人は恐い。それに静かすぎる。恐る恐る周囲に目を配りながら慎重な足取りで進む。

 歌を歌おうかとも思ったけど止めた。そんな気分じゃない。それに宇宙人さんを驚かせてしまうかもしれない。

 ごくりとつばを飲み込む。

 気分をそらすように空を見上げてみる。空はどこまでも晴れて、そして静かだった。

 みかの中の不安が急激に大きくなってくる。でも、負けるわけにはいかない。


「……絶対! ……宇宙人さん……見つけるんだから!」


 みかは自分を奮い立たせるように決意を新たにした。そして。


「むっ! あの花壇怪しい!」


 空元気を押し出すようにその場所へ駆けていった。




 まず最初のターゲットだ。校舎の正面玄関のそばにある一際大きな二つの花壇。そこにはみかの背丈よりも高い草花がもくもくと茂り、花壇全体を占領していた.微風にゆらゆらと揺れている緑の草花の群れ。


「あからさまに怪しいよ!」


 みかは思い切ってその草花の中へ飛び込んだ。


「宇宙人さん! 出てきてー!」


 呼びかけながら草をかきわけかきわけ探し回る。肌をなでる草の感触が気持ち悪かったけど、気にしてはいられない。みかは必死になって探し回った。

 しかし、ここには宇宙人さんはいなかったようだ。みかはがっくりとうなだれて草むらから出てきた。


「うー、もう一つ!」


 気を取り直してもう一つの花壇に飛び込む。しかし、結果は同じだった。

 みかはほうほうの体で草むらから抜け出し、近くの石段に腰かけた。


「ここだと思ったんだけどなー」


 力無い目で今まで自分の入っていた場所を眺めやる。背の高い草花の群れがみかを馬鹿にするかのようにサワサワと揺れた。


「うーっ! みか、これぐらいじゃあきらめないんだからね!」


 みかは新たなる決意を胸に立ち上がり、前進を再開した。校舎の横を周り中庭へまわる。ただただ宇宙人さんに会いたい一心で歩き続ける。

 やがて、みかの前に現れる二つ目のターゲット。

 池。少し広い。コイが泳いでいる。


「宇宙人さんはこの中に住んでいるのかも!」


 みかは足元に転がっていた石を拾うと、池に向かって放り投げた。さっと身をかがめて成り行きを見守る。

 ポチャン。石が落ちて波紋が広がった。コイが驚いたようにその場から逃げ出した。他には何も反応なし。静かなものだ。

 少し待ってからさらに二つ、三つと投げ込んでみる。が、コイが驚くだけで宇宙人さんが出てきそうな気配は無かった。


「おかしいなー。いないのかなー」


 みかは池の縁にかがみ込んでじっと水面を見つめた。水面にゆらゆらと揺れる自分の顔が見えた。


「…………」


 手を入れてかき混ぜてみる。自分の顔がグニャグニャとゆがんだ。

 コイは興味なさげにゆらゆらと泳いでいる。


「ねえ、コイさんは宇宙人さんどこにいるか知ってる?」


 コイに聞いてみた。

 コイはパシャッと跳ねた。みかの顔に水がかかった。


「う、やったなー。それ、おかえしー」


 みかは足元にある石を拾っていくと、コイに向かってポイポイ投げた。コイはすらりすらりとかわしていく。


「キャハハハ」


 数分が経過した。みかはふと我に返った。


「あ、そうだった。宇宙人さん探さなきゃ。コイさん遊んでくれてありがとう」


 みかはコイにお礼を言うと、胸に抱えていた石をパラパラと落とし、元気にその場を後にした。

 コイは相も変わらずゆらゆらと泳いでいた。




 みかは歩いていく。宇宙人さんを探して。

 三つ目のターゲットはすぐに見つかった。

 石の山。中庭の片隅の陰に積み上げられている。まるで何かを隠すかのように。


「怪しい! 宇宙人さんはきっとこの中ね!」


 みかは思い切ってその石の山へ手を伸ばした。大きいのや小さいのや石を次々と手に取り、投げ捨てていく。石の山がどんどん小さくなっていき、周囲に散乱する石の山が大きくなっていく。

 手がだんだん痛くなってきたが、みかは気にせずただ黙々と石をどかせ続けていった。

 やがて、みかの手が石とは違う何かの手応えを掴んだ。

 少女の顔に歓喜の表情が浮かぶ。

 みかは急いでその手前の邪魔になる石だけをかき出すと、恐る恐る目を近づけていった。少しだけ開いた石の隙間から何かが見える。


「黒い……本かな……なんだろ」


 顔を戻して手を突っ込んでみる。

 その時だ。

 突然、背後からみかの襟首を何者かが掴んだ。みかが驚いて振り返るよりも速く凄い勢いで後方へ引っ張られる。足が石山を離れた。


「宇宙人……さん?」


 みかの脳裏に一瞬その考えがよぎった。景色が回る。一瞬相手のぎらりと光る目が見えた気がした。次の瞬間視界が真っ白に染まった。意識が薄れていく。

 みかはなすすべも無く地面に叩きつけられると、そのまま意識を失った。

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