第14話 魔力適性検査
「ご主人様、カオン様がお出かけになられました」
サキアが部屋に入ってきた。
「そうか」
俺の家に1週間だけ雇われることになったカオン。
彼女は2階の一室にとりあえずの形で泊まることになったのだ。
そして、1日目の今日は魔道具を納入のお使いに行かせることになった。
「……あいつ、大丈夫かなぁ」
「近くのお店ですし、私の書いたメモを持たせてあるので大丈夫だと思いますよ?」
「いや、道草食ったりしねぇかなと。田舎の娘だし色々珍しいものもあるだろう」
「そうですねぇ……」
どうか、面倒事を持ち込まないでほしい。
「さて、俺は1週間であいつの素質を見極めなければならん」
「そうですね。派手な魔法を使いたいと言われていましたが……」
「そもそも魔法の素質があるかが分からんからな」
「魔法適性を測る魔法はありますよ?」
「……あるのか。知らなかったなぁ」
というわけで、俺は久しぶりに「世界魔法大全」のページをめくるのであった。
――魔法適性検査――
魔法を使用するには魔法適性の高さが非常に重要になる。
本書では対象の魔法との相性のことを指すが、魔法を使用するためには本人の知識量や精神力も関わるとされている。
魔法適性の高い者は魔法媒体の量や詠唱時間を少なくすることができる、成功率が上がる、高度な魔法を使用できる等の効果を得られる。
一般的に人間の持つ魔法適性は非常に低く80%の人間は魔法を使用できない者と言われている。魔法適性の高さは遺伝や環境によって変わるが、突如として魔法適性の高い人間が産まれることもある。
魔法適性の低い人間に対し、悪魔や精霊といった超常的存在の持つ魔法適性は高い。
・検査魔法
対象の魔法適性を測る魔法。
検査をするためには対象と、魔法を使用する者の二人が必要。使用する者は魔法適性が必要。
右の魔方陣を紙に描き、魔法適性を測りたい対象の血を一滴垂らす。右の呪文を念じると魔法が発光する。
この光が強い者ほど魔法適性が高いとされる。以下が一般的な広さの部屋を暗くした状態で使用した際の目安。
・発光しない 魔法適性なし
・蛍の光程度 魔方陣が光を帯びる。少し魔法適性のある一般人並の適性。
・蝋燭程度 魔方陣周辺が照らされる。魔法適性の高い一般人並の適性。
・月光程度 部屋全体に光が行き渡る。最低限の適性とされる。
・炎程度 部屋全体が明るく照らされる。魔術師の一般的な適性。
・光魔法程度 やや眩しいくらいの強さ。高い魔法適性を持つ者の基準となる。大半の魔法を問題なく使用できる。超常的存在の一般的な適性。
・日光程度 非常に眩しい光を発する。人間ならば数百年に一度程度の適性。人間に使用できる魔法ならば全て使用可能。高度な超常的存在の持つ適性。
・神光程度 神光とは神が光臨する際に発するとされる光。直視していられないほどの光。神に匹敵する存在でなければこれほどの光を発することはない。
「……なるほど。早速試してみるか」
しかし問題が。
「2人いるのか、どうしよう」
「なら私がお手伝いしましょうか?」
「そうだな、サキアがいたな」
俺は紙に魔方陣を描き机の上に置く。
「じゃあ、俺が魔法を使うからサキアは血を垂らしてくれ」
「はい!」
すると、サキアは右腕に左手の人差し指をあてがい、
「えいっ」
ビシュッ
「うわっ!?」
ドババッ
爪で切り裂かれた腕から血が吹き出し、魔方陣にどばどばとかかった。
「おい、ちょっとやりすぎだぞ!」
「あっ! すいません! 机が汚れてしまいました!」
「そういう問題じゃねぇ! 大丈夫なのか!?」
「あ、全然痛くありませんよ? 治癒魔法で傷は塞がりますし」
サキアは平然な顔をしている。
「いや、うーん、そうじゃなくてだな……」
「舐めてみます? 血も調味料代わりになりますよ?」
「もういいから、とりあえず机を綺麗にしてくれ……」
性格的には特に問題ないけど、常識が無い、というか魔界の常識で生きているな、サキアは。
サキアはてきぱきと自分で汚した血を拭き取り、机には血まみれの魔方陣が残った。
まだ血が乾いておらず、赤いテカりが生々しい。
「……さて、気を取り直して」
俺は、魔方陣に向かって呪文を念じる。
すると、魔法書にあったように魔方陣が光りだした。
「おおっ!?」
結構光ってんじゃないか?
カーテンも開けていてそれなりに明るい部屋でも眩しいと感じる程度の明るさはある。
「私は悪魔の眷属ですので、魔法適性は十分にありますね」
「なるほどなぁ」
魔方陣の光は、数十秒ほどすると収まった。
「ご主人様、自分の魔法適性は気になりませんか?」
と、サキアが尋ねてきた。
「……確かにな」
というか今まで気にならなかったのが不思議なくらいだ。
「じゃあ私が魔法を使います!」
「おう、よろしく」
ということで、魔方陣を新たに用意した。
俺は、ナイフを取って人差し指に軽く傷を入れ、血を一滴魔方陣に垂らした。
「じゃあいきますよ」
サキアが、手のひらを魔方陣に向ける。すると、
「うおっ!?」
「わっ!?」
魔方陣が、激しく光りだした。
「ま、眩しいです!」
「こ、これは……嘘だろ?」
数百年に1度レベルの魔法適性!?
その光も、しばらくすると消える。
十分明るい室内が、少し暗く感じた。
「やはりご主人様はかなりの魔法適性をお持ちのようですね」
「マジかよ……」
「賢者の石だって作れるんですよ? 何も不思議ではありません」
そういえば、そうなのかねぇ……。
「師匠! 帰りました!」
カオンが無事お使いから帰ってきた。良かった良かった。
「おいカオン、ちょっといいか」
「はい、なんでしょうか師匠!」
……師匠と決まったわけじゃねぇんだよなぁ。
「今から、お前の魔法適性を測る」
「魔法……適性?」
それすらも知らねぇのかよっ!
「お前が魔法を使えるかどうかのテストだ」
「えぇっ!? そんなのあるんですか!?」
カオンは綺麗な金髪のショートヘアを掻き毟りながら驚く。
「あぁ、これに合格できないとお前は魔法を使うことすらできん」
「嫌です! 勉強は嫌です!」
「違う違う、テストと言っても筆記試験じゃないぞ。お前の素質を見るんだ」
「……そ、素質?」
「そうだ」
俺は、机の上に魔方陣を描いた紙を置く。
「これでな」
「おおっ! なんか魔術師っぽいです師匠!」
「魔術師なんだがな」
そして、俺はナイフを取り出す。
「……なんですか、師匠。そんな物騒なものを持って」
「この魔法にはお前の血が一滴必要なんでな」
「えええぇぇっ!?」
カオンはぴょんと後ろへ飛びのく。
「むむむむ、む、無理です! 怖いです!」
「こら逃げるな! でないとお前が魔法使えるか分からないんだぞ!」
「でも痛いのは嫌ですっ!」
「サキア、捕まえろ」
「はい」
扉にしがみつくカオンをサキアが抱え上げ、机の前に無理矢理座らせる。
「ぎゃーっ! 嫌ですぅ! やめてください! 離してください!」
「暴れるな、危ないぞ」
カオンは逃れようと体を動かすが、小柄なせいでサキアにしっかりと押さえつけられている。
「師匠! 本ッ当に無理です! ダメダメ! 痛い痛い痛い!」
俺はカオンの小さく柔らかい腕を握り、魔方陣の上へ伸ばす。
「嫌ぁ! 怖い!嫌だぁ!」
「歯医者に行った子供かよ……」
涙目になりながら訴える彼女の腕にナイフを近づける。
「いやあああぁぁぁぁ!!」
「大丈夫ですよ、私がすぐに治癒魔法をかけて差し上げます」
「そ、そういう問題じゃなくてぇ!!」
そして、ナイフの刃が腕に触れた。
「ひいいいぃぃぃぃぃぃ!!」
「動くな! 喋るな! 大怪我するぞ!」
「ひぃっ!」
俺は、皮膚を軽く傷つける。
そこからだんだんと血が滲み始めた。
「ち、血ィ! 早く!早く治癒魔法!」
「駄目だ、魔方陣に一滴垂らしてからだ」
「約束と違う!」
そんなのしてないけどな。
貯まった血はやがて筋となって流れ、ぽたりと魔方陣に落ちた。
「よし。サキア、治癒してやれ」
「はい」
「いィぃ……!」
カオンは青くなり形容しがたい声を漏らしている。
サキアはカオンの傷口に手を当てる。その部分から光が発せられ、傷口が治った。
「これで大丈夫ですよ」
サキアはカオンの拘束を解く。
「ふぇ……あぁぁ……」
真っ青だったカオンは、真っ赤になりぐでっとサキアにもたれかかる。
「うぅ……ぐっす……ししょぉ……ひどいよぉ……」
何もそこまで酷いことはしていないぞ。
俺は血のついた魔方陣に向かって念を送る。
すると、
「光った!」
「ふぇ……?」
魔方陣が光りだした。その光は、俺やサキアのものよりは強くないが、確実に光っていると言えるものだった。
「おぉ……結構いいんじゃないか?」
「どういうこと……?」
「お前には魔法の素質がある」
「本当ですかっ!?」
カオンが飛び起きる。復活はえぇな。
「あぁ、魔術師としては十分な魔法適性だろうな」
「わーい!」
両手を挙げて喜ぶカオン。
「じゃあ早速魔法を教えてください!」
「駄目だ」
「えー! なんでー!?」
「まだお前の仮雇われ期間は始まったばかりだからな。魔法を教えるのは、1週間経って俺がお前を認めてからだ」
あと、俺が人に魔法教えたことないのもある。
「そんなぁ! じゃあ何をすれば認めてもらえるんですか!」
「うーん……、俺がお前を弟子にして育てたい人間だと思わせることだな」
「なんですかそれー! 訳分かんないですよー!」
だって適当に言ったからな。俺はお前がどんな人間か知りたいのだ。
「それは自分で考えろ」
「うぅ……」
カオンは押し黙る。
「さ、仕事の続きだぞ。カオン、サキアの手伝いをしてやれ」
「えー!」
「さぁ、早く立ってください! まずはお掃除ですよ!」
「えぇー! なんでお掃除しなくちゃ駄目なのぉ!」
カオンはサキアに急かされながら部屋を出て行く。
「こんな調子で大丈夫かねぇ……」
俺は、ぼそりとつぶやくのであった。
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