第10話 マジックアイテム

 翌日。

 昨日は家の名前の件もあって、結局客は一人もこなかった。

 しかし今日は違う。サキアはそれなりに宣伝を頑張ってくれたし、家の前には「『血肉の館』占いやっています」と書かれたボードが置かれている。

 さぁ、今日こそは金を稼ぐぞ!


 と意気込んでから数十分。3分置きくらいに外が気になり窓の外を覗いてしまう。

 いけない、俺は何をしているんだ……。


「そうだ、こんな暇な時間こそ魔法書を読むべきだ」


 占い以外にも、金を儲けられるような手段を手に入れなければ。


「そうだなぁ……占い以外に、魔術師に頼むような依頼かぁ」


 そもそも占い自体が割となんでもアリな魔法だ。ただの相談事ならこれで解決する。

 別に悩み事だけじゃなく、探し物や浮気調査なんかもカバーできてしまうのだ。

 しかし、言葉でのアドバイスで済む依頼が占いで解決できるとなると残るはアウトドアな依頼、うーむ、悩ましい。

 俺はちまちまと作っていたアクセサリーを眺めた。


「そうだ、商品を増やすか」


 このアクセサリーは健康祈願的な効能がメインだが、もちろんそれだけではカバーできないだろう。

 アクセサリーだけではなく、色んな魔法道具を作成して売ればいいんじゃなかろうか。

 魔除けのお札とか、ネズミ退治の笛とか、需要あるんじゃなかろうか。


 俺は早速魔法書を開き……、ん?


「こういうのってどういう魔法なんだろうか」


 魔法道具の作成、とかか?

 しかし魔法道具っつっても多岐に渡るだろうしなぁ。

 とりあえず目次を見てそれっぽいのを見つけよう。


 俺は魔法書の目次にざっと目を通し始めた。


「おっ、あるじゃないか」


 「世界魔法大全」の7巻に「魔法アイテム」という項目があった。


――魔法アイテム――

 魔法の力を受けた道具の総称。

 魔法アイテムは作成方法の違いにより、魔道具と魔術品の2つに分類される。

 魔道具は魔法を使用するために作られた道具を指し、魔術品は魔法の力を付与されたものを指す。

 魔力の付与の中には神の力を付与された「祝福品」、魔界の力を付与された「呪縛品」などの付与も存在するが、これらは魔術品に含まれない。詳しくは本書3巻の「魔力付与」の項目を読まれたし。


 こんな具合の説明が書かれていた。

 ここになら何かしらのヒントが書かれていそうだ。

 俺はさらに読み進める。


●魔道具

 魔法を使用するために作られた道具。魔法適正の低い者でも魔法を使用することができる道具である。

 使用すると道具に込められた魔力を消費するため、使用回数が限られている。

 魔術品の為の媒体には主に杖や紙が使われる。

 作成のためには、付与したい効果を持つ魔法が使える必要がある。使用に大量の魔力媒体を必要とする魔法を付与する場合には、魔力媒体適正の高い素材を使用しなければ付与しても使用ができない。また、付与すること自体ができない魔法も存在する。

 まず、右の魔方陣の上に付与したい魔法の魔方陣を置く。


・スクロール

 紙でできた魔術品。作成に必要なコストが低く、大量に生産でき持ち運びも容易なため使用率も高い。

 紙は魔力媒体としての適正は低いため、ほとんどの場合1度しか使用できず、強力な魔法の付与もできない。

 大きな紙を使用したり複数の紙を使用すればそれらの問題を解決することもできる。この内複数の紙を使用し書物の形をしたものをマジックブックとも呼ぶ。


・ロッド

 棒状の魔術品。木製か金属製のものが一般的であり、魔法によって使い分けられる。

 魔力媒体としての適正が高い素材をそのまま使用でき、装飾として足りない魔力媒体を追加できる点が魅力。スクロールよりも使用できる回数が多く魔法の幅も広い。

 旅人や商人など、長距離を移動する者が所持していることが多い。


 まだまだ沢山書かれていたが、とりあえずはここでやめておいた。

 今すぐできるようなものではなさそうだ。また、使える魔法が増えてからだな。

 次は少し飛ばして魔術品の項目を見る。


●魔術品

 魔力を付与された道具。使用して魔法の効果を得る魔道具に対し、魔術品は常に効果を発してる。アミュレットや魔除け道具のような、所持しているだけで効果を発揮するもの、魔法の補助を得た武具などがこれに当てはまる。

 付与させたい魔法の描かれた魔方陣の上に付与対象となる道具を乗せ、右の呪文を念じると作成することができる。

 一つの魔術品に複数の付与を与えることもできるが、付与できる数は対象の魔力媒体適正に応じて変わる。また、作成者の魔法適正と対象の魔力媒体適正に応じて付与された効果の強さや付与の成功率も変わる。

 本書は付与できる魔法全てを掲載していない。魔術品の作成は、ロード・イグナス著『魔術品・魔法付与・エンチャント』が詳しい。

 本項では魔法による付与のみを掲載している。魔法以外での魔力付与については前述の通り書3巻の「魔力付与」の項目に記載。


・幸運

 この付与がされた魔術品を持つものに幸運を与える。幸運と言っても、所持者に直接危害を加える不幸を一定の確率で回避することができる程度のものがほとんどであり、過信はできない。

 神の力による魔力付与の一つ「祝福」が似た効果を持つ。


・耐毒

 この付与がされた魔術品を持つものが毒におかされた際、それを軽減あるいは完治させる。

 病気を防ぐことはできず、それを防ぐ付与に「耐疫」が存在する。


 俺は一旦ここで読むのを止めた。

 どうやら魔術品の作成が今俺にもできるものと思われる。

 ゲームでよくあるような概念なので、すんなりと理解できた。

 今のところはエークエル直伝のお守りしかないが、占いの内容に合わせたお守りを作ってもいいなと思った。


 「幸運」「退魔」「安眠」……このあたりは便利そうだな。


「ご主人様、依頼です!」


 と、ドアの向こうからサキアの声がした。


「お! ついに来たか! 入れ」


 サキアが部屋に入ってくる。彼女は占いのための紙をきちんと持っていた。


「いつの間に来てたんだ、気付かなかったぞ」


「そうですね、今から40分ほど前ですね。先ほど帰られました。明日また来たときに結果を聞く、とのことです」


「40分!? そんなに長居してたのか」


「はい。実はこの近くに住んでいる奥様でして、昨日私が渡したクッキーを気に入ってくださったようです。お喋りが好きな方のようで、つい話し込んでしまいまして」


 ご近所回り効果が早速。


「そうか、じゃあそれ渡してくれ」


「はい!」


 サキアは俺に紙を渡した。

 さて、初仕事だ。えぇと、内容は……、


『結婚指輪が見つからない』


 探し物の依頼かぁ。よし、やってやろうじゃねぇか。




――小さきものにより隠されし小さき光は、屋根裏に輝けり――


 これが結果だった。


「小さき光は屋根裏に……ということは屋根裏にあるんだろうなぁ。しかし……」


「小さきものにより隠されし……ですか」


「そうだな。これは無くしたのではなくて、何者かが意図的に隠したってことか」


 小さき者、ということは夫の浮気相手とか、そういうドロドロした話ではなさそうだ。


「その奥さんってのは、子供はいるのか?」


「はい。17になる娘と、5歳の息子がいるそうです」


「となると、怪しいのは息子……か」


「ですが、息子さんが指輪を隠す理由は……?」


「そこなんだよなぁ。子供だから、案外綺麗だからって理由で屋根裏にでもある宝物部屋にでも置いてあったりとかな」


「それはありえますね……どう伝えますか?」


「屋根裏にある、とだけ言えばいい。子供のすることなら、別に注意する必要はないしな」


「はい、分かりました!」


 これで、俺の初仕事は終わった。

 ちなみに、今日来た客はこのご近所の奥さん一人だった。




「ご主人様、奥様がお礼としてシチューを分けてくださいましたよ! 今日の夕ご飯が一品増えますよ、ご主人様!」


 サキアが鍋を持って部屋に入ってきた。

 どうやらこの前の占いが当たったようだ。


「そうか、それはよかったな」


「それでですねご主人様、占いにあった『小さきもの』も分かりました!」


「なんだ、息子さんじゃなかったのか?」


「それがですね、屋根裏を調べたところ、ネズミが巣を作っていたそうです。そして、その巣の中に指輪があったそうですよ」


「ね、ネズミだったかぁ……」


 まだまだ、占いの腕を上げる必要がありそうだ……。

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